6月に入ってから、新しい女とはひとりもセックスできていない。レコードを更新した5月とは打って変わって、6月はとても低調な月となりそうだ。
恋愛工学を実践しはじめる前は、27年間で2人としかセックスできなかったのに、いまでは1か月も新しい女とセックスできないとひどく焦るようになった。1ヶ月の間に少なくとも2、3人の新規の女とセックスしなければいけない、と強迫観念のようなものを感じていた。厳しい月間ノルマを課せられたセールスマンみたいに。
それができないと、負け犬になった気分だ。
時計を見ると、もう6時だ。僕は同僚にメッセージを送る。
[今日は、18:30からの定例水曜ミーティングに出れる?]
すぐに返事が来た。
[出れるよ。会議室で待ってるね]
◆
僕は五反田駅のホテル街の近くのいつものカフェに来た。
ひとりの女が僕を待っている。
「待った?」
「ううん。いま着いたところだよ」
「行く?」
「うん」
僕たちは、そのカフェから歩いて5分ほどのところにあるいつものラブホに入った。
部屋に入るなり、僕たちは抱き合い、キスをはじめた。それからお互いに服を脱がしあう。彼女は30代の半ばで娘がいるとは思えない、見事な身体をしていた。肌は白く、シミひとつなかった。僕と彼女は激しく抱き合った。彼女を一度イカせてから、挿入して、僕もイッた。
男と違い、女がどうやってイクかは、かなり個人差がある。彼女の場合は、となりで乳首を吸ってあげながら、同時にクリトリスを手で5分から10分ほど刺激し続けると、毎回絶頂を迎えた。1回イカせてから、僕は挿入する。こうしてセックスを終えてからシャワーを浴びるのがいつものパターンだった。彼女は人妻で、20時までに家に帰る。時間があったら2回目のセックスもした。
多くの夫婦がそうであるように、彼女たちもまた、子供ができたあとはすっかりセックスレスになってしまったようだ。夫は、どうせ外に女でもいるのだろう。ひとり取り残された彼女は、性の欲望を持て余すようになった。そして、それを発散する相手として、僕を選んだのだと思う。
シャワーを浴びたあと、変な香りが残っていないかどうか入念にチェックしながら、化粧直しをしている。
「今日は、私の仕事をいろいろ手伝ってくれてありがとう」
「僕も水野さんみたいな優秀な人と仕事できると、いろいろ学べて楽しいですよ」
恋愛工学を学びはじめたとき、ナンパや街コンなどで見知らぬ女ばかりにテクノロジーを使っていた。見ず知らずの女たちは、アプローチに失敗しても二度と会わなくてもいいので、恋愛工学の実験をするには打ってつけだ。しかし、恋愛工学を、同僚や昔の女友だちに使ったらどうなるだろうか、という自然な好奇心が湧き出してきた。水野友美が、夫が出張中で、子供を実家に預けていた日があった。彼女は、「とっても開放された気分」と僕に言った。僕は仕事帰りに「ちょっと一杯飲みに行きませんか」と誘ってみた。彼女は快諾した。それからいくつかのルーティーンを試したら、驚くほど効いた。その日、友美は、貪るようにセックスを求めてきた。それ以来、僕と友美との秘密の関係が続いている。オフィスでは、僕たちは同僚として何食わぬ顔をしながら仕事をしている。暗号のようないくつかのメッセージのやりとりで、お互いに都合のいい日に、彼女の帰り道でちょっと寄り道して1時間ぐらいの秘密のミーティングが行われる。
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