chapter4-6 ザオラル

麻雀やポーカーのように、恋愛も運とスキルのゲームだった。そして、このゲームは、練習すればするほど上手くなる。僕は、スキルを磨くために、日々考え、実践していた。

 スタティスティカル・アービトラージ戦略をさらに拡張エンハンスするテクノロジーのひとつに、ザオラルメールがある。ザオラルとは、人気のロールプレイングゲームであるドラゴンクエストの魔法のひとつだ。同系統のより強力な魔法にザオリクがあり、こちらは100%仲間が蘇るが、ザオラルは運に左右され、魔法が効いて蘇るのかどうかはやってみないとわからない。ザオラルメールというのは、一度疎遠になってしまった女に、しばらくしてから(通常は数週間)、さりげなくメールを送り、関係の復活を祈るテクノロジーだ。

 また、セックスできなかった女でも、なるべく友だちとしてキープして、いっしょにクラブに遊びに行ったり、合コンなどを開催するネットワーキングに利用できることもある。こうした女を恋愛工学ではピボットと呼んだ。基点ピボットとなって、他の女にアプローチできるからだ。

 ザオラルやピボットは、発電技術のアナロジーを使えばよく理解できた。

 火力発電所では、化石燃料を燃やして水を沸騰させ、その水蒸気の圧力でタービンを回し、発電する。しかし、最新のガスコンバインドサイクル発電では、二重に発電する系統を作ることにより、エネルギー変換効率を極限まで高めている。第一の系統では、燃料を燃やして高温高圧の燃焼ガスでガスタービンを回し発電する。しかし、天然ガスが持っている化学的なエネルギーの多くが電気にならず、熱として逃げてしまう。一重の系統では、この逃げていく熱エネルギーのロスはそのままだ。しかし、ガスコンバインドサイクル発電では、この熱を使って、ふたつ目の系統でも水を沸騰させ、その蒸気圧でタービンを回しもう一度発電するのだ。二重に発電する系統を作ることにより、天然ガスが本来持っているエネルギーの50%以上を電気エネルギーに変換することができる。通常の火力発電所の電力への変換効率は30%以下だ。ザオラルやピボットに関するテクノロジーは、恋愛の世界における、ガスコンバインドサイクル発電の第二の系統なのだ。スタティスティカル・アービトラージの出会い→セックスorストップロスのプロセスを重層化することにより、恋愛における歩留まり率(ヒットレシオ)を極限まで高める。

「わたなべ君、翻訳会社が送ってきた英語の明細書のチェック終わった?」

 隣の席の水野友美が言った。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
ぼくは愛を証明しようと思う。

藤沢数希

恋人に捨てられ、気になる女性には見向きもされず、非モテな人生をおくる主人公のわたなべ。ある日、恋愛工学と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。 ファイナンス、経済学、エネルギー政策に関する著作をもち、リスク・マネジ...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Fujisawa_bot 恋愛工学が解き明かす愛の物語 約2年前 replyretweetfavorite

kuragestorage ピボットは週刊金融日記第107号お友だちでいましょうで紹介されたテクノロジー。合コンもそうだけど、囮のほうも効果高そう。 約2年前 replyretweetfavorite

tetsu_36 次号のサブタイトルがないので、展開が気になる。残った最後のセフレに非モテコミットしてしまうとか。。。? 約2年前 replyretweetfavorite

horiemon_follow まさかの発電技術の話が出てくるとは(笑) 約2年前 replyretweetfavorite