chapter4-3 コンパクトな三角形

順調に獲物は網の中に入っていく。相棒の進歩に驚きながら、僕も自分がやるべきことをやる。

 六本木ヒルズの近くのバーに到着し、僕たちはグラスワインをふたつ注文した。ここのバーは、僕の自宅連れ込みルーティーンに組み入れられている戦略拠点のひとつだ。

 現代サッカーでは、前線から最終ラインまでの距離を縮めて相手にスペースを与えずにコンパクトな守備をすることが基本である。ディフェンダーは積極的に前に出てオフサイドラインを引き上げ、相手が自由に動けるスペースを制限して行くのだ。

 恋愛工学でも全く同じだった。優秀な恋愛プレイヤーは[クラブやストリートなどのナンパの場所→アポを取って飲みに誘うレストラン→自分の家]の3点で張られるトライアングルをコンパクトにしている。こうして女に自由に動けるスペースを与えず、考える時間も与えないままにセックスに持ち込むのだ。そして、考える時間を与えない代わりに、ベッドの上で感じる時間はたっぷりと与えてあげる。


 僕たちはグラスワインで乾杯した。

「わたなべ君って、いつもこんなことしてるの?」

「そんなわけないじゃん。今日は特別だよ」

「本当? 街コンに来たのがはじめてっていうのも、嘘でしょ?」

 こうやって女が色んな質問をはじめるのは、悪い兆候じゃない。本当にセックスするのにふさわしい男かどうかを見極めるため、テストをはじめているのだ。これも石器時代のままの女の脳に組み込まれた本能的な行動である。あとは、こうしたテストである程度の点数を叩き出せば、セックスできる。つまり、ここまで来たら、センター試験の足切りラインは超えて、記述式の二次試験を受けているようなものだ。

 僕は慎重に解答用紙に答えを書き込んでいく。

「そんなことより、僕はこうして奈菜に出会えて、いまふたりでいられることがすごく嬉しいよ。街コンに来てよかった」

 彼女が嬉しそうな表情を一瞬だけ浮かべてから、僕にボディタッチしてきた。これもかなり強い脈ありサインだ。

 僕は彼女のテストの大問①に、完答した。

 腰に手を回しても、抵抗されなかった。ラポールが形成され、いい雰囲気になっている証拠だ。

「僕は、明日の朝から仕事だから、今日は早く寝ないといけないんだ」

「へえ、大変だね」

「僕の家、この近くなんだけどちょっと寄ってかない?」

 アウトコースにスライダーのボールを見せた後、ど真ん中に直球を投げた。返事はなかったが、表情が明らかな拒絶を示してはいなかった。ワンストライク。

 次のボールは変化球を投げる。

「でも、すぐに帰ってもらわないといけないけどね。明日、早いから。それでもよかったら、ちょっと寄って行ってほしいな。いろいろと僕のこと知ってほしいんだ」

 タイムコンストレイントメソッドを応用したスクリプトだ。時間制限をこちらから設けることにより、ずっとしつこく迫られるんじゃないかという心配を、こっちから取り除いてやり、女に偽りの安心感を与える。

「え~、でもそんな、今日、会ったばっかりだし、家になんか行けないよ」

 彼女のバットはボールに当たるが、ファールになり、これでツーストライク。

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ぼくは愛を証明しようと思う。

藤沢数希

恋人に捨てられ、気になる女性には見向きもされず、非モテな人生をおくる主人公のわたなべ。ある日、恋愛工学と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。 ファイナンス、経済学、エネルギー政策に関する著作をもち、リスク・マネジ...もっと読む

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コメント

Fujisawa_bot 完璧なゲームマネージメントである。> 約2年前 replyretweetfavorite

bokujounusi ランチ中に読みながら勃起した。"" 2年以上前 replyretweetfavorite

kuniken_817 完璧なゲームマネージメントである。> 2年以上前 replyretweetfavorite