ホテル、そして祭り
広場から小路に入り、運河沿いにまた歩くと、目当てのホテルに到着。これまで海外旅行でこんなにスムーズにホテルが見つかったことはない。ネットの口コミに、「このマークを目印に」と入口のプレート写真をアップしてくれた人の親切さに心から感謝しつつ、フロントに。
すらりとしたロングヘアの女性が明るくハローと言ってくれる。怪しい英語で予約したことを伝えると、名前を言っただけで無事チェックイン。ああ、いい時代だ、ホントにいい時代になった!
「うちはエレベーターがないけど、荷物用のリフトにのせるからスーツケースは置いたままでいいのよ、部屋に案内するわ(意訳)」と言われ、ついていった先のシングルルームは、広くこそないものの、写真でみた以上の可愛さで、ひゃあっとなる。ベッドにひゃあ、机にひゃあ、洗面所にひゃあ、…いや洗面所はかわいいっていうのとは違うけど、やっぱりひゃあだ。
▲女性誌の恒例企画「狭くてもお洒落な部屋」に参考例として真っ先におすすめしたい
しかも部屋の隣は朝食会場でもある食堂だ。24時間使っていいエスプレッソ(以外も飲める)マシンもある。運び入れてもらったスーツケースをベッドの脇に広げると、もう通り道もないけど、そんなの全然問題にならない。
何はともあれスマホやノートPC、カメラの充電という甚だ色気のないことをして、…ああ、コンデンサーもちゃんと使える。レンタルしたWiFiも大丈夫っぽい、良かった。長いフライトだったし、今日は部屋で少しくつろごうかな、とちらりと思ったような気もするけれど、気が付けば再び身支度をしてカバンを持って、部屋を出ていた。だって、さっきみたいな人たちがいるなら、とにかく一度メインの広場にいってみなくては!
すでに外は暗くなりはじめ、サンマルコ広場までの道は電飾が光ったり、ショップのウィンドウが輝いていて、観光客や街の人が行き来している。小さい橋をわたると、道の両側にはおしゃれな小物やガラス細工、お土産や紙ものの店がいっぱいで、ひとつひとつ1時間くらいみていきたいがふりきって(と言いながらとりあえずウインドウの写真だけは撮りつつ)目指すはとにかく祭りだ祭り。
なんだろうこの解放された、子供の頃みたいな気持ち。祭りに向かう自分を止めるもの、残した仕事もかかってくる電話も、気になる会話も、視線もなんにもない。階段状の橋をうまいこと登れるようになっている荷車を、物珍しそうににポカンと見ても問題ない(防犯的には問題あるが)。あれは何だろう、と思うものがいつもよりずっと多くて、「自分と関係ないもの」がずっと多くて。
ああ、一人旅ってこういうことだ。ここに誰かがいれば、私は無意識にいつもの自分や、いつものしがらみもまた負ってしまう。子供がいれば大人をやるし、しっかりものといれば妹分をやるだろう。自分の役割は相手がいるときに自動的に、相対的に決まるけれど。
何の役割も担う必要がなければ、ひたすら自分の夢想にひたりながら、目に入るものにふらふら走り寄ってしまう、手袋を落としても気づかずに道行く人に拾ってもらう(実際やらかした)、そんな、ボンヤリなくせに落ち着きがなくて、周囲についていけない自分に逆戻りだ。