第84回】 ウクライナ問題に特効薬はない!? ヨーロッパの今後を大きく左右する歴史的4者会談に注目

ドイツのシュトゥットガルトに在中の川口マーン惠美さんが、EUから見た日本や世界をテーマにお届けするコラムです。


左からドイツのメルケル首相、ウクライナのポロシェンコ大統領、フランスのオランド大統領
〔PHOTO〕gettyimages

東部が混沌としている限り、EUはウクライナを見捨てない

2月5日、ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領がキエフに飛んで、ウクライナのポロシェンコ大統領と会談したというニュースが、すごく唐突に飛び込んできた。間違いなく、ウクライナ紛争がEUにとって深刻さを増してきた証拠だ。

しかし同日、NATOは、ポーランドとバルト3国への緊急展開部隊の配置を決定した。最高指令を司るのがドイツだ。部隊の名前は「槍先」。これがロシアとの戦闘を意識しているものであるのは明らかで、見ようによっては最大の挑発ともいえる。一方で和平への努力、もう一方では威嚇。欧米の政治は、一筋縄ではない。

ウクライナのポロシェンコ大統領は、大統領とはいうものの、何の重みもない。反民主主義だとか、汚職まみれだとか言って追い出したヤヌコヴィッチ前大統領より、民主的でクリーンであるという確証もない。本当に紛争を終わらせたいのかどうかも分からない。東部が混沌としている限り、EUはウクライナを見捨てない。

ウクライナ軍と親ロシア派との内戦が始まってすでに9ヵ月、状況は本当に混沌としている。すでに5400人が命を落とした。ウクライナ軍が親ロシア派に、士気でも装備の点でもずっと劣っていることは、いかんともしがたい。ここでEUに見放されては、ポロシェンコ大統領はあっという間に奈落の底に落ちるだろう。おそらく、すでに亡命先を見繕っているかもしれない。気の毒なのは、いつものことながらウクライナの住民だ。

ポロシェンコ首相は、EUに武器の支援を執拗に要請している。それがないと、親ロシア勢力の攻勢に耐えられない。アメリカも同じく、ドイツがウクライナに武器を提供するよう、かなりの圧力をかけてきている。しかし、武器支援は火に油を注ぐだけで、紛争の鎮静化には役立たないというのが、ドイツ政府の見解だ。ポロシェンコ大統領、メルケル首相、オランド大統領の三者会談の後、記者会見は中止され、何が話し合われたかはわからない。

ドイツが武器支援を拒否したことに腹を立てたアメリカのジョン・マケイン上院議員は、翌6日、ドイツの第2テレビのインタビューで、こう言った。

「メルケル首相は物事が理解できていないか、ウクライナの人間が虐殺されることをどうでもよいと思っているかのどちらかだ」

この発言にドイツ人は呆れ、ある議員はツイッターで、「我々は、カウボーイではなく、ちゃんと言動を吟味できる首相を持っていて幸せだ」と応酬した。


左からメルケル首相、ロシアのプーチン大統領、オランド大統領
〔PHOTO〕gettyimages

外交での解決に専念すると主張するメルケル首相

話を5日に戻す。夜、キエフから一旦ベルリンに戻ったメルケル首相は、翌日、イラクのアバディ首相と会見。イラクが求める物もただ一つ。武器だ。しかし、これもいなして(武器以外の支援を約束)、メルケル首相は午後、急遽モスクワに飛んだ。一足遅れで、オランド大統領も駆けつけ、即座にプーチン大統領と三者会談。前日のキエフでの三者会談に続き、わずかなチャンスに希望をつなぐ「蜘蛛の糸」平和使節団といった感じである。

この会談は、本当に三者のみの密室会談で、かなり険悪な雰囲気だったという。最後の共同会見もなかった。巷に出ている丸テーブルに座る3人の写真は、わざわざ別に撮った物だそうだ。何が交渉され、どんな妥協案が紡ぎ出されたのか、あるいは、紡ぎ出されなかったのか、何もわからない。後に、ロシアのスポークスマンが発表したところによると、9月に結ばれたミンスク協定を練り直し、それで停戦に持って行く方法が模索されたそうだ。ミンスク協定は、ウクライナ軍と親ロシア派の間で結ばれたものの、ちっとも守られず、その後、戦闘は激化した。

メルケル首相は、ロシアと交渉できる数少ない政治家と見做されている。元東独出身なので、ロシアについては裏の裏まで知り尽くしている。ロシア語も堪能だ。決して親ロシアではないが、西側の反ロシア一辺倒のスタンスとは、少し態度を異にするところはある。イデオロギーではなく、もっと深い、歴史に則ったドイツとロシアの関係を考慮しているようにも見える。

さて、5時間あまりの密室会談のあと、夜遅くモスクワを後にしたメルケル首相は、そのままミュンヘンに飛んだ。翌7日の朝、ミュンヘンで開かれている安全保障会議の檀上でスピーチを行うためだ。すでに、世界各国の国防大臣、外務大臣を始め、安全保障担当の官僚や、諜報関係者が勢ぞろいしていた。

メルケル首相のスピーチは同会議の目玉で、会場はすし詰め、立ったまま聞いた参加者もいたという。ここでの主張も、ドイツはウクライナに武器の支援は行わないというもの。ウクライナに武器は十分すぎるほどあるが、それが問題解決にはつながっていない。ドイツは、外交での解決に専念するという。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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