第83回】今、人類学がおもしろい! サルからヒトへ、そして現在もなお進化し続ける人類の謎

ドイツのシュトゥットガルトに在中の川口マーン惠美さんが、EUから見た日本や世界をテーマにお届けするコラムです。


〔PHOTO〕gettyimages

ときどき、自分が違う職業を選べるとしたら、何になりたかったかと、夢のように考えることがある。私の場合、オペラ歌手か人類学者だ。オペラ歌手はさておき、人類学者のほうだが、人類学は幅が広い。
過去から現在までの人類についてのすべてが包含される学問なので、考古学も生物学も、そして、言語学も民俗学も関係してくる。私は、サルがヒトに変化していった過程とか、それよりもずっと後だけど現在よりはずっと前の、マンモスを狩っていたころの人間などに、とりわけ興味がある。

日経サイエンス』の12月号の大特集「人類進化 今も続くドラマ」は、極め付きにおもしろかった。

第1部 直系祖先はだれだ? 気候変動のインパクト 進化を加速したハンマー
第2部 一夫一妻になったわけ 助け合いのパワー 生まれながらの協力上手
第3部 ネット化された霊長類 まだまだ続く進化

の3部構成となっている。

人類進化は一本ではなく、とても複雑に進んでいた

中学校のとき、人の一番古い祖先はアウストラロピテクスだと習った。教科書に載っていたアウストラロピテクスの絵はゴリラと人間のハーフのようで、怖いながらも楽しくて、ある先生にアウストラロピテクスというあだ名を付けた。だから、今でもこの原人の名前はスラスラと言える。

アウストラロピテクスのあと、初めてヒトといえるホモ・エレクトスが現れて、これがネアンデルタール人に進化し、それがさらに進化して、我々の直系の祖先であるホモ・サピエンスになるというのが、昔、習ったことだ。進化は一直線だった。

しかし、以来40年のあいだに、人類学は驚異的な進歩を遂げた。しかも、この10年ほどは、すごく価値のある新しい人類化石の発見が相次いでいるので、人類学は画期的なページを迎えているらしい。とくに一昨年、南アフリカで、初期人類の1集団全体の骨が埋まっている洞窟が発見され、人類学者たちは興奮している。

今では、どのヒト族が何百万年前に現れ、いつ絶滅したかのは、その骨が見つかった地層の年代を突き止めることによって、かなり正確に知ることができる。また、骨から回収されるDNAで、その骨の持ち主の素性も一目瞭然だ。これら遺伝情報のおかげで、いつごろ、どんな混血があったかということさえ、どんどん明らかになる。

その結果、混血していないと思われていたネアンデルタール人と、そのあとに出現したいろいろなヒト族のあいだに混血があったことがわかったし、我々の祖先であるホモ・サピエンスが故郷のアフリカを出て世界に拡散できたのは、長い脚と大きな脳のためだと言われていたのも間違いだとわかった。実は、脚や脳が進化するよりもずっと前に、ホモ・サピエンスはどのようにかして居住地を遠くまで広げていったのだった。

それと同時に、ネアンデルタール人は愚鈍で、ホモ・サピエンスが生まれながらにして優秀であったという定説も覆された。20世期の研究者たちは、自分たちの祖先であるホモ・サピエンスの能力を過大評価する傾向があり、ホモ・サピエンスはほかのヒト族をことごとく滅ぼし、3万年前には地球上唯一のヒトとなったと考えたが、実際は、ホモ・サピエンスも旧人類も最初はどっちもどっちで、しかも彼らは前述のように、互いに混血していたことさえわかった。

また、ヒト族は、その種類が思っていたよりも多く、彼らが同じ地域に併存していた時期が、過去に何度もあったこともわかった。そんなわけで、わかることが多くなって、かえってわからないことも増えた。人類の系統図は樹ではなく、ごちゃごちゃに入り組んだ茂みであったようだ。進化は一本ではなく、とても複雑に進んでいた。しかも、ホモ・サピエンス以外のヒトはすべて絶滅しているのだから、私たちがどのような進化を辿って、今ある姿になったのかということを突き止めるのは、とても難しくなってしまった。

700万年以上前から一夫一妻だったことを示す3つの仮説

ここから先は、『日経サイエンス』2014年12月号を参考に書く。

700万年前、ヒトの祖先はチンパンジーとの最後の共通先祖から分かれた。このころのヒトの祖先は類人猿に似た生き物で、体重を四肢で支えて、基本的には樹上に住み、前に突き出た大きな顔を持ち、小ぶりの頭蓋の下に頑丈な顎がつき、その認知は現在のチンパンジーのそれとほぼ同じだった。それが700万年で現在の姿になるのだが、この進化は、実は異常な速さであるらしい。なぜ、ヒトの進化が超特急で進んだのか?

これまでその答えは、ヒトが石器を使い、住居に住み、さらに火の利用法を獲得したことで難局を乗り切ったからだとされていた。もちろん、それは正しい。しかし、これら「物質文化」の登場は、進化史上で見れば、比較的最近のことらしい。まず、その前に、ヒトは樹上生活をやめて、脚で立つ必要があった。

つまり、700万年のうちの最初の500万年ほどは、ヒトの祖先もほかの霊長類と同じ道を歩み、どのサルもどきが本当にヒトになっていくのかは、わからない状態だった。200万年前、ようやくヒトはヒトの歩き方になり、簡単な道具を作り始めるが、でも、まだ100万年前は、彼らは住居も衣服も火も知らなかったのだ。

最近では、そのあと進化が加速したのは、気候変動のせいだという見方が有力になってきたらしい。物質文化が発達するより前、気候の劇的な揺らぎが起こり、それが進化を加速させた。気候が過酷になったとき、原始的な道具などあっても、どのみち初期のヒト族は生き延びられない。気候の変動に適応できる能力が必要となる。それは、遺伝的な突然変異、あるいは、文化的な革新だ。

環境の変動に適応しやすい遺伝的な突然変異が起こると、その変異種は、集団が小さいほど短期間に定着しやすい。それが急速な進化を引き起こし、その集団は生き延びることになる。文化的な革新も同じで、集団が小さいほど効果が上がる。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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