無限大の可能性を求めたら、起業するしかなかった
藤野英人(以下、藤野) 前回は、司法試験に合格するまでのことをおうかがいしました。今回は、なぜ起業するに至ったのかというところを掘り下げていきたいと思います。起業するきっかけはなんだったんですか?
元榮太一郎(以下、元榮) 司法試験に受かったあとは、アンダーソン・毛利・友常法律事務所に入所しました。
藤野 「四大法律事務所」と呼ばれる大手渉外事務所のひとつですね。
元榮 そこで、グローバル企業のM&A案件を多く担当していたのですが、ある時、日本の有名ベンチャーの案件に関わることがありました。その経営者や会社の方が、普段接している大企業の人たちとは、全然違ったんですよね。前のめりで、勢いがあって。初めてベンチャー企業というものにふれて、起業家は可能性が無限大でおもしろそう! と思いました。弁護士も素晴らしい仕事ですが、キャリアの最終形はいい意味で想像できる。でも、起業家って見えないじゃないですか。
藤野 アップサイドもダウンサイドも突き抜けていますよね。
元榮 僕はやっぱり、一度きりの人生を可能性無限大のほうにかけてみたいと思ったんです。普通だったら、せっかく弁護士になったのにそこから離れるなんてもったいない、と考えるかもしれません。でも、高校の頃から今までを考えると、意識的に他と違う道を選んできた結果、人生楽しくなったことが多かったよな、と思ったんです。
藤野 高校生での一人暮らしも、家庭教師の営業も、六本木の黒服アルバイトも。
元榮 そうです。そこで、弁護士の起業は聞いたことがなかったんで、むしろやってみようと思いました。しかも上場なんてしたら、弁護士による上場という日本初の出来事として、日本の弁護士の歴史を塗り替えることになるな、新しい弁護士の活躍の形を提示することで弁護士界を元気づけることもできるかな、と。そうしたときに、自分の強みは、法律・弁護士といったところにあることと、ちょうどそのころブロードバンド環境が整って、インターネットが爆発的に普及するというタイミングだということをかけあわせたらどうか、と思い立った。それで弁護士とネットをかけあわせた「弁護士ドットコム」のアイデアにたどりついたんです。
藤野 なるほど。
元榮 もっとさかのぼると、元になったのは大学2年で交通事故にあったときの経験でした。僕は中古車をローンで買ったんですけど、金銭的な余裕がなくて任意保険に入ってなかったんですね。その状況で買ってわずか2週間で物損事故を起こしたんですが、弁護士に相談して修理代の全額負担を免れることができたんです。でも、弁護士を探すのがとても大変でした。
藤野 一般の人にとっては、どこにどうやって相談していいかもわからないかもしれないですね。
元榮 そうなですよ。それでその時のことを思い出して、「僕みたいな人は、今ネットでさまよってるはずだ」と気づいた。だから、困っている人と弁護士をネット上でつなげたり、無料相談できたりする場所がつくれたら、多くの人の助けになるはずだと。それを2004年の10月に着想して、2005年の1月に事務所を辞めて起業準備を始めたんです。
藤野 起業の際の資金はどうしたんですか? どこかから調達したんですか?
元榮 資金調達などの知識もまるでなかったんで、200万円の貯金と銀行から無担保ローンで300万円を借りて始めました。辞めたときには、経営の知識もなければネットの知識もほとんどなかったんです。とにかく、24時間365日、自分の可処分時間をつぎ込めばなんとかなるだろうって思っていました。僕、まず退路を断つのが好きなんですよ。
藤野 「退路を断つのが好き」って、変わってますね(笑)。
元榮 だからとりあえず、辞めちゃったんです(笑)。で、「やった!念願の独立だ!でも、起業や経営ってどうするんだろう?」と本屋に行ってインターネットビジネスや経営についての本を買ってきました。まずは、それをずっとファミレスで読んでたんです。
エリートの山をいったん降りる勇気
藤野 起業してみて、弁護士と起業家の違いってどんなところにあると思いましたか?