前回書いたとおり、火星SFは幻想系とリアル系に大別されるわけですが、リアル系火星SF長篇の嚆矢は、アーサー・C・クラークが1952年に発表した『火星の砂』。これは、地球-火星間を結ぶ人類初の宇宙定期船アレース号に乗客第1号として搭乗したSF作家(その名もマーティン・ギブスン)が火星植民地を取材する話。
なにしろ60年以上前に書かれた小説なので、タイプライターで書いた原稿を火星からファックスで送信したりするし、火星に山がなかったりする。とはいえ、当時としては最新の科学知識に基づき、できるかぎりリアルに書かれたハードSFだった。
ちなみに『火星の砂』が、はじめて《ハヤカワSFシリーズ》から邦訳刊行されたのは1961年のこと。このときは、以下のようなキャッチコピーがついていた。
SF界の第一人者A・C・クラークが、その該博な知識と透徹した思索力とを総動員し、イギリス風のドライ・ヒューモアをまじえて描く現代SF随一の傑作。リアリスチックな宇宙船内の生活と、人類史上にかつてない労苦に耐えて火星植民地を維持し、火星を人類第二の故郷とするべく闘う人々の感動的な姿とは、やがて来る火星征服の日にも、読まれるだろう!
この謳い文句のとおり、『火星の砂』は電子書籍化もされて半世紀後の現在も読まれつづけているが、 “火星征服の日” のほうも、ひょっとしたら意外と早くやってくるかもしれない。
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