『My Humanity』ハヤカワ文庫JA カバーイラスト:usi
このたびは『My Humanity』で第35回日本SF大賞をいただき、ありがとうございます。
S-Fマガジンからお話いただき、執筆当時のメモを読み直しつつ解題記事を書かせていただきました。
これはどうしても著者による自作語りになってしまうことではあります。なので、内容よりも、著者がどういう動機からスタートし、それが原稿としてどう結ばれたかを書くことにしました。
読み方を狭めるものではなく、同じときを生きるひとつのhumanityがどのように小説を組み立てていったのか、楽しんでいただければさいわいです。
『My Humanity』は、1作目の「地には豊穣」を執筆した29歳から、4作目「父たちの時間」の39歳まで、10年の経過がある短篇集です。
各作品の動機をたどるため、執筆メモを読み返してみました。すると、変わった部分と変化のない部分が見えてくる興味深い体験ができました。
まずはSFマガジン2003年7月号に掲載いただいた「地には豊穣」です。
□ 地には豊穣
この小説は、はじめてSFをはっきりと意識して書いた小説でした。第1作目には作家の特徴が現れるといいますが、執筆メモを見返すと本当にそうでした。
執筆手順が変わっていないためです。
自分にとってどういう意味づけの小説かという「筆者と原稿の繋がり」を明確にすることが、いつも原稿作業の起点になります。執筆メモの3割くらいは、これを組み立てるために費やされています。
このメモをとりながら、描くシーンやテーマを断片的に作っているのです。こうしたものを実際に組み込む方法やかたちを考えたものが、自分にとってのプロットです。
手間はかかるのですが、この手順では、小説のさまざまな要素が自然と筆者自身に繋がります。なぜ書くのかという一つの問いから生まれたものなので、完成したときにもまとまりを期待できるのです。
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