傷口から人生。

不完全家族の履レキ書

小学生時代のある体験をキッカケに、自分の家族について、疑問を抱くようになる小野美由紀さん。「正しい家族」「普通の家族」……そんな言葉を前に、小野さんは「うちの家族って、不完全で恥ずかしい。」と感じるようになります。家族の形って、いったいなんでしょうか?『傷口から人生。 メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった 』(幻冬舎)の内容の一部を、cakesで特別公開しています。


 小学校2年の頃だ。

 ある日の授業中、自分の家族がどんな仕事をしているのかを、生徒一人一人がスピーチすることになった。

 級友たちが、名簿のアイウエオ順に「私のお父さんは会社で橋をつくっています」とか、「私のお母さんは看護師さんです」とか、教壇に立って話してゆく中、私は嬉々として、自分の番を待っていた。

 しかし。私の番が回って来たとき、それまでニコニコしながら生徒の返答を聞いていた、女性教師の顔色がさっと変わった。彼女は私を名指ししたあと、私が話しはじめるよりも早く、1オクターブ高い声でおおげさにかぶりをふり、

「小野さんのお父様は、単身赴任でアメリカに行ってらっしゃるんだもんね。お一人で研究しに行かれてるなんて、立派なお父様よねぇ。はい、次」

 と、なぜか私を飛ばして次の人を指名したのである。

 私は仰天した。

 飛ばされたことにもだが、その話の内容に、である。

 なにそれ。そんなこと、聞いてない。

 なぜ、家族でもない先生が、私が知らない家族の事情をそんなに知っているのか。

 なぜ、私は飛ばされたのか。

 誰しも人生の中で、ある日を境に世界の見方が突然、それまでとは全く異なるものになってしまった瞬間があると思う。私の場合、それはこの瞬間だった。

 先生の、ひきつれた口元、おおげさな態度、困ったように泳ぐ目を見た時。幼い私は、「ああ、世界というものは、どうやら、私が知っていることだけでできているわけではないのだ」という事実に、ぱつんと行き当たってしまったのである。

 その先生の一言を境に、私の中で、世界はばくんと二つに割れた。すなわち、「正しい家族」なんてものの存在を、考えずに済んでいた世界と、それを疑いはじめた世界に、である。

 そしてそれは、指で乱暴に割ったゆで卵のように、決してもとには戻らない。


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この連載について

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傷口から人生。

小野美由紀

中3で自傷&不登校。大学に馴染めず仮面浪人。留学、TOEIC950点、インターン等々の無敵の履歴をひっさげ大企業の面接に臨んだのにパニック障害に! 数々の困難にぶつかってきた女子、小野美由紀さんの衝撃と希望の人生格闘記『傷口から人生。...もっと読む

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コメント

kuroda_jp 何によらず、物事の不完全さを受け入れるのって本当に難しい…。 約5年前 replyretweetfavorite

MiUKi_None 「家族なんて、本当はみな欠けだらけだ。未成熟な人間、不完全な人間が寄せ集まって生きている。」 5年以上前 replyretweetfavorite