第4回】宝塚歌劇とAKB48

大学卒業後、阪急電鉄に入社。駅務員、車掌、運転士を経て宝塚歌劇団にかかわるようになった森下信雄さん。歌劇団にて制作課長、星組プロデューサーとなり、その後宝塚総支配人として宝塚歌劇事業全般を担当しました。その森下さんが2015年1月に刊行した『元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略』より一部編集して、そのエッセンスを全4回にてお届けいたします。

「シロウト」と未完成

 ここからは本書の冒頭で書いた「シロウトの神格化」という観点から、宝塚歌劇というビジネスモデルを考えていきたいと思います。

 「シロウトの神格化」……まず、私の考える「シロウト」とは決して「上手い/下手」という技術的問題を指しているわけではありません。「プロ」の対極にある一般的な概念ではなく、「それ以上、上手になってどうするの?」という、「プロ」を自称する人たちにとっては耳の痛い、答えに窮する質問には一切関わりのない概念だということを最初に確認頂きたいと思います。

 「シロウト」とは「未完成」の状態であると言えます。宝塚歌劇の世界における「シロウトの神格化」とは、言い換えれば「未完成」をファン・コミュニティが「共に」バージョン・アップしていくプロセスとも言えると考えます。

 ファン・コミュニティ一人ひとりが「独自の」まなざし、すなわち独自の基準で「推しメン(生徒)」の成長を見守り、育成していく。従って、そのプロセス(=心理的アクセス方法)は全て異なるわけで、その多様性自体が宝塚歌劇コミュニティの100年に及ぶ歴史、活性化、広がりに直結していると考えられ、それがエンターテイメントの未来像を見渡すうえで重要な視点を提供するのだと私は認識しています。

「偶然性」を取り込んでいくAKB48

 宝塚歌劇生徒及び、彼女たちを応援するファン・コミュニティの目指す究極の目標は「シロウトの神格化」の頂点たる「トップスター」の地位となります。トップスターの地位をAKB48に置き換えれば、それは「センター」となります。そのポジションを獲得できれば、ご承知のようにテレビやCM等のメディアでの露出が増え、注目度は一気にアップします。

 宝塚歌劇において「トップスター」になるためには、入団してから数々のハードルを乗り越える「必然的」なプロセスを経なければ到達できないシステムになっています。これに対して、AKB48の神格化の頂点(AKB48の場合は敢えてゴールとは言わない)たる「センター」になるには「偶然性」が大きなポイントを占めているように思います。
 AKB48では、ニューシングルをリリースする際に参加するメンバーを選抜するため、2009年に「総選挙」という制度を導入しました。

 それまでは秋元氏をはじめ、スタッフが参加メンバーを選んでいましたが、毎回メンバーが固定されてしまうことや、スタッフが恣意的に選んでおり不公平だ……といった声がファン・コミュニティから上がったと言います。そこでファン・コミュニティによる「民主的な投票」によって新曲を歌え、投票第一位のメンバーが「センター」の地位を獲得するという「実力本位」だけではない、この制度が導入されました。

 そして、さらにAKB48の「偶然性」をより高める役割を担う制度が翌2010年に登場しました。今では毎年9月に開催されている「選抜じゃんけん大会」です。「じゃんけん」だからといってバカにはできません。その結果で総選挙と同様に選抜メンバー、そして「センター」までもが決まってしまうのです。

 じゃんけんは、総選挙が人気投票であるために、既にマスメディア等への露出の高いメンバーが有利になるという欠点を克服し、現状では人気・知名度に劣るメンバーにも平等にチャンスを与える位置付けにあると言えます。「将来性・贔屓」といったスタッフの思惑や、「投票」「握手会の列」といったファンが立ち入る要素が全くない、究極の「偶然性」発露の場となります。

 選抜総選挙や選抜じゃんけん大会の模様は地上波で生中継されており、15%を超える平均視聴率をたたき出しています。偶然性に満ち溢れた、筋書きのないドラマを、スポーツ中継を視る感覚でドキドキしながら視聴者は観ているのだと感じます。このあたりにシステムに反映された「秋元プロデューサーの想い」を感じ取ることができるのです。

専用劇場が生み出す「偶然性」
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元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略

森下信雄

100周年を迎えた宝塚歌劇団。競争激しいエンターテイメント業界でこれほど長く続けられている理由とは。垂直統合型システム、著作権管理方法、ロングラン興業のための5組化・・・。その秘密が今、明かされる。

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