僕は師・角川春樹の差し出す無理難題に正面突破し全力で応えてきた。

「心に決めた師」はいますか? 今回は、幻冬舎代表取締役社長・見城徹さんが角川書店に勤めていた頃のお話。当時、社長の角川春樹さんとの信頼関係を死守し、どんな難題も可能にしようと覚悟したそうです。
数々の伝説的ベストセラーを生み出してきた見城さんによる、圧倒的結果を出すための仕事論、ブレずに生き切るための人生論を収めた著書『たった一人の熱狂』から、その一部を特別先行公開いたします。

心に決めた人を裏切るな

 小学館から出た矢沢永吉の単行本『成りあがり』は、僕が角川書店に入社した頃の大ベストセラーだった。当時は小学館に文庫はなかったから、当然文庫本は小学館の系列会社である集英社で出るものと誰もが信じて疑わなかった。

 しかし角川春樹さんは「見城、『成りあがり』を角川文庫に持って来れないかな」と言う。

 誰もが考えもせずに「それは無理でしょう」と答えるはずだ。大ヒットした『成りあがり』は、当然のことながら集英社で文庫化するに決まっている。そのルールをひっくり返すなんてことは、業界の常識としてありえない。

 だが僕は「わかりました」と言って正面突破で交渉を始めた。

 その当時、僕は最高トップである角川春樹さんとの信頼関係を死守し、どんな難題も可能にして見せると心に決めていたのだ。

 矢沢永吉の事務所を訪ねて毎日毎日しぶとく交渉を重ねるうちに、とうとう事務所の社長は根負けしたらしい。角川で文庫化する替わりに、常識では考えられない条件が提示された。映画館の予告編やテレビのスポットにコマーシャルを打てるかと言って来たのだ。文庫本でそんな宣伝をするなんてことは、通常では考えられない。

 しかし、諦めきれない僕は会社へ戻ってから原価計算してみた。 すると文庫本が50万部売れれば、それだけの宣伝費を投入しても十分ペイすることが解った。僕の中では2割の不安が残っていたわけだが、50万部どころか、100万部のミリオンセラーを狙えるという確信も8割方あった。

 もし50万部を達成できなければ、テレビや映画館で打った広告費を回収できず大変な責任問題になる。臆病と不安に怯えながら、「やるしかない」と僕は決断した。こうして僕は、小学館から角川書店に『成りあがり』を強奪したのだ。

 結果的に『成りあがり』は100万部を超えるベストセラーになった。CM出稿料は悠々と回収し、矢沢永吉も角川書店も大きく潤った。不可能を可能にする僕の戦いの原点は、『成りあがり』をめぐる正面突破の交渉にある。

 春樹さんの発想は、一事が万事ハチャメチャだった。

「今のやり方だと、講談社、小学館、集英社、新潮社、文藝春秋などにウチが追いつくまでに50年かかる。倒産を覚悟で映画を作るしかない。もし当たれば映画のヒットと同時に本が売れる。そうすれば、10年でウチは大手5社に追いつける」

 ある時、春樹さんは「横溝正史の本を映画にしてヒットさせれば本が売れるんじゃないか」と言い出した。こうして生まれた角川映画の第一弾が「犬神家の一族」(76年公開)だ。

「『犬神家の一族』は死に至る映画になるかもしれない。この映画がはずれればウチは倒産する」。春樹さんは悲愴な覚悟で一世一代の勝負に打って出た。

 映画公開の前日、僕と春樹さんはマンションの一室に集まった。春樹さんが「神」という言葉を口にしたのは、この時が初めてだ。「俺たちはやれることは全部やったよな。あとは何をやるべきか。わかるかお前!」「はい! 何でしょうか!」「神に祈るんだよ!」人事を尽くして天命を待つ。僕は春樹さんと一緒に天に祈りを捧げた。

 翌朝の公開当日は、あいにくの雨模様だった。春樹さんのベンツに乗り込んで、僕たちは有楽町の日比谷映画という劇場へ向かった。するとそこには信じられない光景が広がっていた。「犬神家の一族」を観にやって来た人々の行列は劇場を2巡し、皇居の方まで人が並んでどこが最後尾か解らない。涙が止まらなかった。

 映画は大ヒットし、横溝正史の文庫本は飛ぶように売れた。翌年以降、森村誠一原作の「人間の証明」(77年、松田優作主演)、「野性の証明」(78年、高倉健主演)など、角川映画は次々と大ヒット作を飛ばしていく。「映画と本と音楽のブロックバスター」という春樹さんの戦略は爆発的に当たった。

 僕は師・角川春樹の差し出す無理難題に正面突破し全力で応えてきた。

 その春樹さんがコカイン疑惑事件で社長を追われた時、僕は筋を通すため会社を辞めた。

「この人」と心に決めた人との信頼関係はなんとしても死守するべきだ。


次回「結果が出ない努力に意味はない」3/13公開予定です。

待ちきれない方は、こちらの元幻冬舎社員による直撃インタビューをお楽しみください。
人生は「憂鬱」と「熱狂」でできている—幻冬舎社長・見城徹インタビュー


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たった一人の熱狂-仕事と人生に効く51の言葉-
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この連載について

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たった一人の熱狂—仕事と人生に効く51の言葉

見城徹

「仕事」とは何か、「人生」とは何か。「圧倒的努力」「圧倒的結果」とはどのレベルを指すのか。「金」は全てか、「愛」とは何か、「死」とどう向き合うか。 数々の伝説的ベストセラーを生み出してきた幻冬舎代表取締役社長・見城徹さん。...もっと読む

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konpyu 熱すぎる... 約5年前 replyretweetfavorite

minowanowa @KenjoToruBot https://t.co/8xd7nm1qB8 見城徹新刊先行配信。 約5年前 replyretweetfavorite

minowanowa @takapon_jp http://t.co/xiLF69tlZ8 約5年前 replyretweetfavorite