沖縄の豚の味、東京の豚の味
「らふてえ」は、ある程度上の階層に限られるが、沖縄では昔から家庭料理として広く食されてきた。理由は、祝事などにかかせないごちそうであることもだが、なにより保存食だからである。「美味なるらふてえ」ではその機微が描かれている。
いずれにしても「らふてえ」は、琉球料理を代表する一つだ、とわたしは思っている。
もともとは家庭料理で、貯蔵に適しているため、わたしの母はよくつくっていた。
母が「らふてえ」をつくるのにつかっていたのは、たしかな記憶ではないが、豚のもも肉だったように思う。
そして作り方が説明される。要点は素材の豚である。
市場に出かけて、もも肉の塊を二つ、三つ仕入れてくると、七輪に炭火をおこす、皮を下にして金網にのせ、火にかけるのは、皮を軽く焦がすためである。
あのころの沖縄で飼育されていのは、黒い毛の豚ばかりだった。(略)
「らふてえ」の皮を焦がすのは毛を焼く意味もある。そこまでしても皮の部分が必要になる。肉と脂肪と皮の三つの部位が重なっていることから、「三枚肉」とも言われる。
著者はこのあとしばし黒豚の話を続ける。東京に出て白い豚を見て驚いたし、食べてみたら生臭かったとも言う。
同郷の友人たちとも合って、ふる里と違う東京の食事に対する不満を話しあう場合、必ず「ここの豚肉はヘンな匂いがするね」ということで一致した。
この黒豚「しまうゎ-」は、琉球在来種で「アグー」と呼ばれ、戦後絶滅しかけたが近年、復興も試みられ、レストランなどで供されることもある。
「らふてえ」の調理は、毛や毛根を除いたあとからが本番だ。
あと、ていねいに洗ってから、角切りにして、鍋に入れ、かまどの火にかけた。火は強くしないで時間をかける。そのうちに、皮と肉の間にあるあぶら身からあぶら溶けだして、やがてこのあぶらのなかで肉が煮られるという状態になった。
フランス料理のコンフィに似ている。そしてコンフィと同じように脂に包んで保存食となる。と同時にこの過程でもラードができ、沖縄料理に利用される。
本書から透けて見える沖縄と日本の歴史
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