「何言ってるんだよ。酔いすぎじゃないのか? さっぱり意味がわからない。大体さ、自分の部屋じゃないってことは、誰の部屋なんだよ?」
訊ねると、増岡は露骨に動揺して、
「……なんというか、あの、知ってる人のアパートの鍵です」
「友達? いや、そうじゃなさそうだな。じゃあ彼氏か何かかよ。だったら、もっと大事にしなくちゃ駄目だろう」
「ち、違います。彼氏じゃないです。あの、年上の、男の人ですけど、でも私はこんなのいらないんです。どうせ行かないし。向こうは勝手に私の部屋に来るけど……ああ、そうじゃなくて! もうっ! どうして、こんなものを持ってなくちゃいけないの」
増岡がもう一度投げつけると、キーホルダーは今度はクサノの足下まで転がって、彼が不審げに拾い上げる。
「これ、増岡の鍵? それともミズヤグチさんのですか?」
そう訊ねられても、増岡はむっつり唇を閉ざしてしまって返事をしない。
「あ、彼女のです。こっちにください」
かわりに僕が受け取ってはみたものの、また投げ捨てられてはたまらない。今度は手渡すのではなく、彼女のバッグのファスナーを勝手に開けて、そのなかに放り込んだ。そして、元通りファスナーを閉じる僕を、増岡は恨めしそうに眺めていた。
午後十一時を過ぎる頃、宴はお開きとなり、僕達は店を出た。会計は、前もって宣言していた通り宇見戸が支払ってくれる。何やらいい加減な言葉を喋る人だから、土壇場になって割り勘と言い出すのではないかと疑っていたのだけれど、一言もそんなことは言わなかった。そして僕らは来た時と同様に人混みを縫うようにして新宿駅まで移動する。