大学3年生の冬のある日、就職活動の面接の帰り、新宿駅のブックファーストでおじいさんにナンパされた。
その時の私は、狭い本棚のあいだに突っ立ち、さっき面接を受けたばかりの出版社の本棚を、穴が開くほど見つめていたのだ。「受かった気がしない……」と思いながら。
そのおじいさんは当然のごとく「就活、がんばってる?」と聞いてくる。
私はその時、銀座でホステスのアルバイトを続けながら就活をしていたので、お店のお客さんか、それともどこかの面接で会ったおじさん社員かなあ、と思って、その人の顔をよーく、見た。
どこかで、見たことのある顔だ。
髪もひげも眉毛も伸び放題なのに、服だけはきちんとしている。
黒々とした瞳で、こちらの目を
なんか、洞窟の中から出てきた仙人みたいだ。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。