電気サーカス 第13回

電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。“テキストサイト”を始めた“僕”は、友人たちと共同生活の日々を送っていた。そんなある日、サイトで知り合った宇見戸に誘われオフ会に参加。女子中学生の“増岡”と出会う。

「ええ、ええ、そうなんです。まったく、困っちゃいますよね。しかもベロチューだったし。増岡も覚えてるだろう? ……なんだ黙っちゃって。ああそうだ、クサノ君もいたな。君は見てたよね?」
「さあ、どうでしたかね」
 クサノは迷惑そうに答えたが、宇見戸は頓着しない。
「とにかく、前回は楽しいオフ会だったんですよ。いやでも、勘違いしないでくださいよ。キスって言っても、別にいかがわしいものじゃないんです。酒の席の盛り上がりというか、流れというか、そういったノリですから。増岡だって楽しそうに笑っていたんですし、誤解しないでくださいよ」
 聞いてもいないのに宇見戸は詳しく解説する。その言い分を増岡は肯定も否定もせず、ただ白い顔に苦笑を浮かべていた。
 そこでドリンクが運ばれて来る。
「じゃあ今日は、ミズヤグチさんを囲む会ということで」
 宇見戸はそう言ってジョッキを手に取るのだが、どうもその僕を囲む会って名前のつけかたが、からかわれているようで内心納得出来ぬのだけれど、僕は自意識の過剰なところがあるから気のせいかもしれない。不満を内心にとどめつつ、宇見戸の音頭にあわせて乾杯をする。
「しかし、こうして好きなサイトの管理人に会うのは楽しいですね」
 それぞれが飲み物に口をつけ、そして最初に話しはじめたのはやはり宇見戸であった。
「今日はこうして『電気サーカス』のミズヤグチさんに会えましたし、この間の会では増岡にも会えました。あの時は、『アイソトープ』の人もいたんです。知ってますか? ええ、味醂さんです。うふふ、味醂って名前なのに、体が悪いそうで、青白い顔をしてましたよ。いやあ、あの人も良い文章を書くんですよ。もちろん、ミズヤグチさんも素晴らしいですけれどね。なかなか、ああいう文章は書けないものです。僕はね、本当にあなたのサイトが好きなんですよ!」
 彼は無精髭の間の油でぬらぬらと光る唇をゆがめて笑う。このナメクジのような唇で、この少女と口づけをしたのだろう。酒に酔っていたとは言え、よくそんなことが出来たものだ。

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電気サーカス

唐辺葉介

まだ高速デジタル回線も24時間接続も普及しておらず、皆が電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。個人サイトで自己表現を試みる若者達がいた……。

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