ギラギラした威圧感をもつ男
逃げ出したくなるような沈黙の支配する事務所の中に、ひとりの男が勢いよく入ってきた。蹴り飛ばすようにドアを開けた男は、30代前半だろうか、その丸顔は日に焼けて黒く光り、一目見て高級そうなスーツの胸板ははち切れんばかりに厚い。
振り込め詐欺店舗のベテラン店長にして、新副番頭、毒川。番頭の加藤と密談をしていた時とは別人のように、丸顔の中の大きな目に覇気をギラギラさせ、触れれば爆発しかねない威圧感をもっての登場だった。
「お前らが研修の生き残りか!俺は詐欺の箱回してる店長の毒川だ!」
唾を飛ばす勢いの毒川に5人の参加者がたじろぐのを見るや否や、それまでの小柴の罵声とは比較にならぬ大音声の怒声が響いた。
「おらあ!なに座ってんだ!」
毎朝晩の軍隊式とも言える発声練習やシゴキを乗り越えてきた5人である。即座に椅子を蹴るような勢いで立ち上がった。毒川の陽に焼けた丸顔の額には血管が浮かび上がり、いまにも人を殺しそうな迫力だ。が、その次に毒川の発した言葉に、一同の腰は抜けたようになった。
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