詐欺のプレイヤーを作る研修とはどのようなものか

オレオレ詐欺など老人を狙った詐欺、通称「老人喰い」。その被害は増えつづけ、2014年1~11月では498億7343万円にのぼっています。なぜ老人詐欺は増えつづけるのか。その担い手は誰なのか。cakesでは2月に刊行された鈴木大介著『老人喰い』(ちくま新書)の中から抜粋し、毎週水曜に連載します。犯罪の深層をえぐり、社会の病を撃つ、迫真のルポをご覧ください。

怪しげな営業研修スタート

 坊主と髭眼鏡は満足したように顔を見合わせ、大きく息を吸い、さらなる大きな声で事務所の壁を震わせた。坊主頭が、日に焼けた顔をさらに赤らめながら、一同を睥睨する。

「改めて、これから研修を始める! 俺は小柴、こっちの髭は牛島だ。まずは発声練習から、牛島に続け!」

 それを受けた髭眼鏡の牛島が、これまた胸一杯に息を吸い込んで、それを一気に吐き出した。

「おはようございます!」

「お、おはようございます?」

 躊躇いの見られる男らに、小柴の怒声が飛ぶ。

「声が小せぇ!」

「おはようございます!」

「おはようございます!!!」

「もういっちょデカい声で!」

「おはようございます!!!!!」

 20人以上の男が腹から出した「おはようございます」は、それだけでもその場を異空間に変える。それにかぶせるように、牛島の大声が鳴り響く。

「大変お世話になります!」

「大変お世話になります!!!」

 ただ声を出すだけなのに、復唱する男たちの額に汗が滲んでくる。

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます!!!」

 先導する牛島の額にも、汗が滲みだした。

「失礼いたします!」

「失礼いたします!!!!」

 次は何を復唱するのか? 待ちの姿勢の男たちに対し、小柴がその厳つい顔を緩めて言った。

「はい、じゃあ失礼いたします! って、帰るんじゃねえぞ!」

 これまでのキリキリした緊張感と裏腹の小柴の言葉に、一同は一瞬あっけにとられる。

「ここは笑うとこだろ!」

 牛島が合いの手を入れると、事務所の端々から小さな笑いが漏れた。

「それじゃあ、全員着席!手元にあるスクリプト見てくれ。9時スタートだから、あと1時間ちょっとで隅から隅まで目ぇ通せ。分かんないことあったら黙ってねぇで、どんな下らねえことでも聞きにこいよ」

 全員がミニテーブルに置かれたプリントを手に取る。そこに書かれていたのは、投資用マンションの営業スクリプトだった。

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老人喰い—高齢者を狙う詐欺の正体

鈴木大介

オレオレ詐欺など老人を狙った詐欺、通称「老人喰い」。その被害は増えつづけ、2014年1~11月では498億7343万円にのぼっています。なぜ老人詐欺は増えつづけるのか。その担い手は誰なのか。cakesでは2月に刊行された鈴木大介著『老...もっと読む

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コメント

tmaita77  一流企業顔負け。罪悪感をなくすために,高級ゴルフクラブのリッチな老人の姿を見学させることまでする。 4年弱前 replyretweetfavorite

powder0311 ああ、これ「ギャングース」のブレインやってる人の本か。   4年以上前 replyretweetfavorite

tmaita77  罪悪感をなくすために,高級ゴルフクラブのリッチな老人の姿を見学させることまでする。 4年以上前 replyretweetfavorite

sizukanarudon オレオレ 老人喰い―高齢者を狙う詐欺の正体|鈴木大介 https://t.co/XD9wwXGpwj 4年以上前 replyretweetfavorite