海外でも賞賛される「動き」のスペシャリスト──モーションアクター古賀亘③

特撮ヒーローの“変身後”を演じる「なかのひと」ってご存じですか? スーツアクターと呼ばれたりもします。古賀亘さんも名うての「なかのひと」の一人にして、世界的な“モーションアクター”。あの『モンスターハンター』 『鉄拳』などメガヒットゲームは、彼なくして成立しなかったといっても過言ではありません。前回まで、怪人20面相的に活躍される古賀さんにその「仕事」「特技」について聞きましたが、今回は前史です。

 これまで戦隊モノやウルトラマンなどの特撮ヒーロー番組には欠かせない存在ながら、顔は映らず、一般によく知られてこなかった“変身後”のヒーローや怪獣の着ぐるみの中に入る役者さんたち。
 彼ら“スーツアクター”にスポットライトを当て、具体的にどのような仕事なのか、トレーニング風景や撮影現場の様子をつぶさに描き、話題を呼んだのが昨秋公開された映画『イン・ザ・ヒーロー』(武正晴監督・2014年公開)でした。

スーツアクター”を主人公にした映画『イン・ザ・ヒーロー』から。トレーニングシーン。主演の唐沢寿明さんも、じつは「東映アクションクラブ」出身。16歳から5年間スタントを経験。「仮面ライダー」シリーズでスーツアクターとして出演していた。


唐沢寿明演じる主人公は念願が叶い、特撮ヒーローの“変身前”の主役が回ってきた、
と喜んだのもつかの間、福士蒼汰演じるアイドル俳優にその役を奪われる。
© 2014 Team REAL HERO
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映画『イン・ザ・ヒーロー』のキーパーソンモデル

 唐沢寿明さんが演じるアクション歴25年、アクションクラブを経営しながらも現役を続けるレジェンド的なスーツアクター“本城渉”のモデルとなっているのは、じつはここでロングインタビューする古賀亘さんだ。もちろん、実際の映画が完成するまでには、古賀さんだけでなく何人もの経験者に取材して作り上げられているため、彼ひとりがモデルというわけではない。それでも、重要なキーパーソンであることには間違いはない。

 1972年、愛知県の出身。現在は横浜で「株式会社活劇座」を経営する42歳の古賀さんが、アクションの世界に魅了されたのは小学4年生のとき。当時の少年たちの多くがそうだったように、ジャッキー・チェンの映画がきっかけでした。


モーションアクターとなる前にしていたのは
 

古賀亘(以下、古賀) アクションスターの夢を抱いて入りましたが、スタントマンなどの仕事していくうちに分かってくるんですよ。台本の1ページ目に名前の載るメインキャストのひとたちは、僕らとは違うところからやって来る。ピョンピョンピョンって。僕の場合、下積みを続けていて、ここから先にはいけないんじゃないか? という一線があることに気づかされたんです。

── 越えられない高い壁がある?

古賀 しかも僕たちの世代は、アクション人口も多かったですからね(笑)。
 ただ、可能性がゼロとも言い切れなくて。たとえば『神話戦士ギガゼウス』(2012年関西テレビ系でシリーズ放映)では、
主演で、変身前の主人公と、変身後のスーツアクターも担当させていただきました。だから「ない」とも言い切れない。

デパートの「ヒーローショー」が晴れ舞台

 古賀さんの「モーションアクター」といういま仕事は、ジャッキー・チェンを目標にした、10歳のときに名古屋のアクションクラブを訪ねたことが、紆余曲折を経て、いまにつながっている。



古賀
 そこで「君はまだ身体ができていないから、15才になったらまた来なさい」と言われました。まだ5年もある。その間、何かできることはないかと空手を習いに行ったりしていたら、「いまのうちにお芝居を勉強したほうがいいよ」とアクションクラブを紹介してくれた従兄弟に言われたんです。
 それでNHK名古屋児童劇団に入り、中学のときにはNHKの「中学生日記」にレギュラーで出ていたんです。

── おおーっ、メジャーですね。

古賀 生徒役ですが、といっても一クラス20人いる中の一人で、毎週出るわけではない。レギュラーが100人もいましたから(笑)。

 高校に進むと劇団を辞め、古賀さんは東映名古屋アクションクラブ(現・名古屋アクションクラブ)に入り直したという。
 アクションクラブの練習と空手の稽古がそれぞれ、週2回。日曜日は、デパートの屋上などでヒーローショーに出演し、土曜日はそのリハーサル、さらにアクションクラブの先輩たちと公園や田んぼでの「自主稽古」。それだけでなく、学校の体操部にも所属するなど、スケジュールはビッシリ埋まっていた。

── 練習は具体的にどんなことを?

古賀 パンチやキック、受け身などの基本動作と筋力トレーニングに、「立ちまわり」という振り付けのついたアクションや武器を使った殺陣などです。本格的でしたね。
 でも、その東映名古屋アクションクラブは1円もお金をとらずに教えてくれたんですよ。

── 高校を卒業されてからは?

古賀 東京へ出て行きました。両親はアクションだけでやっていくことには賛成せず、進学するのならいいということで。
 アクションクラブの先輩が先に東京に出て行っているので、夏休みなどに部屋に遊びに行ったりしているうちに仕事仲間を紹介してもらい、「僕も高校を卒業したらこっちに出てくるので」とアピールして、すぐにでも仕事がやれるようにしていたんです。

── では、大学のほうには?

古賀 東京YMCA社会体育専門学校というところに進学しました。スポーツトレーナーやスポーツインストラクターなどを養成する学校なんですが、仕事が圧倒的に忙しく。やりたいことが目の前にあると、どうしても学校は後回しになるというか。通ったのは、結局半年。お金も入ってきたから勘違いして、「もう仕送りはなくていいから」と両親に言ってしまったんです。

── 自活できるだけは稼げていた?

古賀 生活できるギリギリのメドは立ったときに「家賃だけ」と言い、「それももういいから」と。いまになってみると、学費まで出してもらったのに勝手なことをやってしまって、両親には申し訳ないことをしてしたと反省しています。

── ちなみに家賃はどれぐらいですか?

古賀 3万8千円、風呂ナシで、場所は新小岩の古いアパートでした。


どのようにして仕事のオファーは来るのか?

── 仕事は事務所に所属して?

古賀 いえ、僕の場合はフリーです。いろんなアクションチームの練習に参加していると、「メンバーが足りないんだけど」と僕らにも声がかかるんです。優秀なフリーはメンバーを飛び越して。
 だから練習の場は、自分をアピールする発表の場でもあって
、本当の意味での練習はこっそりとやってました。といっても、もらえる仕事は「斬られ役」とかなんですけどね(笑)。

── それでも簡単ではないと思うんですが、指名のかかるコツはあるんですか?

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顔のでないヒーロー「なかのひと」

朝山実

ウルトラマンや戦隊ヒーローなどの“変身後”の「なかのひと」ってご存じですか? スーツアクターと呼ばれたりもします。 横浜で「活劇座」という会社を経営する古賀亘さんも名うての「なかのひと」のひとり。知るひとぞ知る、世界的な「モーション...もっと読む

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コメント

waniwani117 “レジェンド・アクター”のモデルにして、 4年以上前 replyretweetfavorite

MotionActor55 映画『イン・ザ・ヒーロー』で唐沢寿明さんが演じる主人公のモデルは、ギガゼウスの剣隊長!?詳しくはWEBマガジン『ケイクス』で!!!3月12日(木)20:50まで無料で読めます(途中で無料会員登録が必要になります) http://t.co/p9MEsMroDg 4年以上前 replyretweetfavorite

tsukiyono_ 【 裏方さんのお話し満載。 4年以上前 replyretweetfavorite

mayanomi 興味深いインタビュー連載で嬉しい。次回も楽しみ。 4年以上前 replyretweetfavorite