川端康成が嫉妬した女子学生
—— 前回伺った田山花袋みたいな話って、ネット上でもよく見かけますよね。普遍的な話なんだなあと感じました。
猪瀬 同時期に、神奈川県の藤沢に住んでいた内藤千代子という女子学生が、『ホネームーン(ハネムーン)』という小説を書いてデビューしています。彼女も『女学世界』に投稿を繰り返していて、15歳のときに「田舎住居(ずまい)の乙女日記」という文章が認められて、博文館からわずか18歳で出版できたんですね。それを読んだ同じく投稿少年の川端康成は、自分と同年代の女の子が先にデビューしたことにショックを受ける。その小説は、彼女の体験にもとづく「男女交際」の物語なんだけど、川端は当時、男子校で女性と口をきいたこともないから、異世界の話のように感じる。
—— 都会の才能あふれる女の子が、自由に楽しく生きているのを、地方にいる鬱屈した青年が眺めているわけですね。その構図も、今のネット世界と似てますねえ。
猪瀬 彼女の小説の中に、「『文章世界』へ投稿を繰り返す中学生」という設定の男の子が出てくるんだけど、それがまるっきり川端なんだよね。作中で内藤千代子自身をモデルにしていると思われる少女が「お帰りあそばせっ」と挨拶すると、男の子は意識しすぎて返事できずに、自分の部屋に逃げていってしまうんだ。それを見た内藤千代子は、「ほんとに妙な方、若い女は悪魔の化身だと思っていられるのかしらん」とか書くんだよ。なんというか、純情な少年をからかって手玉にとる女の余裕を、すでに身につけているよね。自然に才能が発芽しているというかな。まあでも、内藤千代子も今では忘れられた作家の一人だから、そういう女性の多くは、若いときが才能のピークになってしまうことも多いんでしょうけどね。
—— おもしろいなあ。時代の変化の予兆は、まず才能ある女性の出現によって示される、というのは現代にも言えるような気がします。インターネットの世界にも、次々に才能を感じる文章を書く、若い女性が出てきていますからね。
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