松尾スズキ「笑わせるための力学がある」

10年振りとなる長編小説『私はテレビに出たかった』を上梓した松尾スズキさん。演劇、映画、小説、エッセイ、漫画原作など、様々なジャンルを行き来しながら数々のエンターテインメント作品を創出し続けています。「笑い」と「暴力」が同居する創作の背景から、年齢とともに変化する表現の傾向まで、じっくりとお話をうかがいました。キーワードは、「身体性」。松尾さんの身体の動かし方は、すべての表現につながる、創作の原点になっているそうで……。

松尾スズキがいま輝いている3つの理由

演劇から小説まで、マルチに活躍
大人計画の座長であり、脚本・演出家。舞台だけでなく映画やドラマにも個性派俳優として出演し、ときどき監督も。小説やエッセイも書けば、漫画の原作も……とマルチクリエイターっぷりがすごい!

作家としても芥川賞に2度ノミネート
舞台の脚本では1997年に演劇界の芥川賞といわれる岸田國士戯曲賞を受賞。小説でも、2006年と2010年に芥川賞にノミネートされており、それぞれのジャンルで評価されています!

それでも笑いを忘れないのがすごい
発表の場が舞台や映画でも、サブカル雑誌のエッセイでも、純文学系文芸誌に書いた小説でも、揺らぐことないエンターテインメント性。サービス精神なのか照れなのか、シリアスに徹することなく笑わせてくれます!

身体の動きがおもしろい人は、考えていることもおもしろい。

— 松尾さんは演劇、映画、テレビなどに俳優として出演されるほか、戯曲を書いたり演出したり、小説、エッセイを執筆したりと、本当に幅広く活動されていますよね。ご自身の創作に一貫したテーマみたいなものはありますか?

松尾スズキ(以下、松尾) うーん、なんだろう……自分の身体性が反映されているっていう気は、すごくするんですけど。

— 身体性。それは、小説やエッセイについてもですか?

松尾 そうですね。僕は昔から、動きが変だって言われ続けて育ったんです。それに、もともと文筆家を目指していたわけじゃなくて、絵ばっかり描いて、漫画家を目指していたような子供だったんですよ。

— 松尾さんの原点は、漫画なんですね。どんな漫画を描かれていたんですか?

松尾 すごくドタバタしたギャグ漫画ですね。今でも、自分の体からにじみ出る、人を笑わせたいっていう根源的な思いは僕の創作全般に連なっているので、小説や舞台作品だけではなく、エッセイも外しては考えられません。むしろ、エッセイを書くことで、常に笑わせる筋肉みたいなものが鈍らないようにトレーニングしている感がありますね。

— 「身体性」というのは、たとえばどんなことですか?

松尾 僕がおもしろい動きをするなって思う人は、だいたいおもしろいことを考えているんです。動きがおもしろい人は、発想もおもしろい。アメリカのコメディアンだったり、日本だと財津一郎さん※だったり。
 僕は財津一郎さんのファンなんですけど、彼のあの変な動きとか、声の出し方……僕は声も身体性に含まれると思うんですけど、低音から一気にパーンと高音に突き抜けるときの身体性っていうのは、ジム・キャリーに通じるものがあると思っています。
※財津一郎:俳優、コメディアン。タケモトピアノのCMに出ていた「ピアノ売ってちょうだい~♪」の人

— 見て、聴いて伝わるおもしろさですね。松尾さんが子供の頃は、そういう動きでまわりを笑わせるような子供だったんですか?

松尾 いや、ただの動きが変な子(笑)。昔から落ち着きがないって散々言われてきましたが、今は教育によって、ギリギリこうして落ち着いていられるんです。殴られて、殴られて、こうなったっていう。ただ、その鬱憤が溜まっているからか、舞台で変な動きをしちゃったりするんですよね。

— 文章には、どうやって身体性を持ち込むんでしょう?

松尾 具体的にいえばリズムだったり、テンポだったりするんですが……。根源的なものだから言葉にするのが難しかったりするので、そこは舞台に出ている僕の身体を見て想像してほしいですね。ああ、こういうふうに動きたい人は、こんな文章を書きたいんだっていうことが、少しは伝わるかもしれない。

— なるほど。文章のリズムっていうと、僕は今回10年ぶりに出された長編『私はテレビに出たかった』の冒頭が好きなんです。
「焦っていた。齢四十を超えているのに、男は傍目にもすぐわかるほど焦っていた。/なにしろ、走っていた。バーバリーの上下で走っていた」……もうこの書き出しからぐぐっと引き込まれました。会話の間とか、その人の動きやセリフもそうですね。どもっている感じや、焦っている感じが伝わってきます。

私はテレビに出たかった
私はテレビに出たかった

松尾 それは僕が、戯曲を書き続けてきたからでしょうね。あまりセリフに凝り過ぎちゃいけないっていう小説作法もあるかもしれませんが、会話のテンポとかで、笑わせるための力学みたいなものはあるんですよ。こういう振りがあって、それを受け継いで、間があって、オチが来るっていうような。

— いわれてみれば、言葉の意味だけを笑うわけじゃありませんね。

松尾 でしょう? そういうリズムっていうのは、映画を撮って編集するときにも考えます。僕は演出家でもありますから、文章を書くときも思ったことを羅列するというよりは、人が読むテンポを計算するんです。こう来て、こう来て、ここで落ちるんじゃなくて、一度「……」を入れた方がいいかなとかね。そういうのって、作家よりは演出家としての目線で考えている気がします。

暴力を振るうのは嫌だから、舞台や小説で解消する。

— 演劇も小説もエッセイも、作り方が根本的に変わるわけではないんですか?

松尾 うーん……そういわれると、エッセイや小説、映画っていうのは、一つひとつ定着させたものを人に提示するわけじゃないですか。それに対して、演劇の舞台やコントは客との間の空気のなかでできるものですから、また違うアプローチがあるんですけど……そこを話し始めるとねえ、もう一日くださいっていう話になっちゃうから(笑)。

— では、時間も限られているので少し話を変えます。過去の作品や活動のなかの暴力や、変態的なセックスの描写から受けたイメージだと思うんですが、最初、松尾さんのことをどんな凶暴な人なんだろうと思っていたんです。

松尾 昔はもっと思われていたと思います。はい。

— そういう「野蛮性」というのも、松尾さんの創作には欠かせないものですか?

松尾 まあでも、だいぶ穏やかにはなりましたけどね。10年以上前に書いた『宗教が往く』で、出し切った感があるんですよ。直接的な暴力は、あれだけ出したらもういいかなっていう。今は暴力といっても、言葉の暴力や精神的な圧力による暴力みたいな、もっと内省的な話を書いた方がおもしろいと思っています。
 新作の『私はテレビに出たかった』では、フランケンという超暴力的な男を据えることで暴力を対象化しているんですけど、それでもやっぱり昔に比べたら全然おとなしい方ですし。まあ、毎日お茶の間に届く新聞に、あんなエグいものを書くのも申し訳ないですからね。

宗教が往く
宗教が往く

— 『宗教が往く』は、新聞に載せてもらえないと思いますが……。

松尾 あれを書いたのはまだ30代のときですから、年齢によるところもあるでしょうね。50になって書き始めた小説で、まだそんなに暴れていたいかっていうと……。筒井康隆さんも言ってましたよ。若くて元気なときはドタバタ小説が書けたけど、歳を取るに従って、そういうものは書けなくなったって。

— それは、先ほどの身体性にも通じるお話しですね。

松尾 そうかもしれません。

— 松尾さんは『現代、野蛮人入門』に、「わたしの作品は、抑圧的な自分から解放されたいもう一人のわたしの姿です」と書かれています。若い頃は、何に抑圧されていたんでしょうか。

松尾 僕は、基本的に抑圧されていると思って生きているんですよね。昔は学校生活が本当につらくて、子供時代が一番不幸だったと思っています。先生とか、集団行動しないといけないこととか。修学旅行が本当に嫌でしょうがなかったです。
 東京に出てきた理由も、近所の人とうまくいかなくて田舎にいづらいなっていう情けない理由だったりして。東京で一旗揚げてやろうとか、そんな晴れがましい気持ちで出てきたわけではありません。

— 基本的に、生きづらかったんですか?

松尾 まあ今でも生きづらいと思いながら生きていますよ。暴力性ということでいうと、田舎が結構凶暴な人の多い地域だったので、そういうところでまわりの人を見ながら育って、暴力っていうのがすごく身近なものではありました。ただ、自分が他人に暴力を振るうのは嫌だから、それは内面に抑え込んで、小説なり舞台なりで出して解消していこうというふうに思っています。


次回「体からにじみ出る、人を笑わせたいっていう根源的な思い」、3/10更新予定。

松尾スズキ(まつお・すずき)

1962年福岡県生まれ。作家、演出家、俳優、脚本家、映画監督。88年に劇団「大人計画」を旗揚げし、97年『ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~』で第四一回岸田國士戯曲賞、2001年ミュージカル『キレイ~神様と待ち合わせした女~』で第三八回ゴールデン・アロー賞・演劇賞を受賞。06年『クワイエットルームにようこそ』が第一三四回芥川賞候補作となり、08年には、映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で第三一回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞、10年『老人賭博』で第一四二回芥川賞候補。

構成:宇野浩志 撮影:喜多村みか


私はテレビに出たかった
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現代、野蛮人入門 (角川SSC新書)
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宗教が往く
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いま輝いているひと。

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あの人は、どうして輝いているのか。いま目が離せないあの人に、たっぷりお話を伺います。

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angelmikazuki |cakes編集部 @cakes_PR (ステキなインタビュー✨) https://t.co/lcUPIF9nqY 約3年前 replyretweetfavorite

hexagoban >動きがおもしろい人は・・ https://t.co/rpdfLfMstX 約4年前 replyretweetfavorite

koojun @yuriccc25 わかる。しばらく前にドキドキしながらインタビューしました。 https://t.co/wbl5YNE54P 約4年前 replyretweetfavorite

tak_ashee 「身体の動きが面白いひとは、考えていることも面白い。」( 4年以上前 replyretweetfavorite