「自分の死」は突然やってくる
私は、『どんな病気でも後悔しない死に方』(角川SSC新書)という本で、がんや心疾患、脳血管疾患、認知症など、日本人の死因となる病気別に、終末期の病状について解説しています。ただし、実際のところ、「いつ死ぬのか」がわからない病気はたくさんあります。
がんの場合は、余命が数週間となると予測できることが多いのですが、それを迎える前に予測することは難しく、あくまで目安にしか過ぎません。死は突然やってくる可能性もあります。それでは、私たちは身の回りのものをいつ、どのように処分するべきでしょうか。
遺品から発覚したショッキングな出来事
山下さん(仮名)は、70歳の大腸がんの患者さんでした。緩和ケア病棟で治療を受けて、穏やかに亡くなりました。「大変な経過をたどる可能性もある」と聞かされていた奥さんも、望外に静かな最期であったことに胸をなで下ろしたのでした。
事件は、奥さんが遺品を整理している時に起きました。
段ボールの中から見つかったのは、奥さんとは違う女の人とのご主人の写真。それも一人ではありません。ずいぶんと昔、結婚した頃の若かった時分の写真があります(髪の量でわかったそうです)。名前もわからないA子さんとご主人は笑顔で写真におさまっています。
比較的、最近と思われる写真もありました。B子さん……ではありません、もう何子さんかわからないくらいアルファベットが進んでいます。
奥さんはがく然としました。「男は過去の恋愛を複数のフォルダで持ち、女は過去の恋愛を上書き保存する」という名言(?)を地で行くかのように、ご主人は律儀にもすべてのフォルダを上書きすることなく、大切にそれぞれのフォルダに保存し続けたのでした。
奥さんはまず驚き、悲しみ、怒り、そして「どうして?」という問いが頭の中を渦巻き続けました。
——どうして彼は、浮気をしたのか
——なぜこんなにたくさんの人と関係したのか
そして
——なぜこれらの証拠を消し去ってくれなかったのか
ご主人が余命を伝えられてからも、それらを処分する余裕はあったはずでした。
——思いつかなかったのか
——捨てられなかったのか
——まだ生きるだろうと思っていて、そのうち処分しようと思っていたのか
考えても考えてもわかりません。遺影の写真は、がんでやせる前の笑顔の良い写真を選んでいました。その笑顔を見ると、無性に腹が立ってきます。
「いったいどういうつもりなの?」
水でもかけたい気持ちに駆られるのです。
奥さんは本当にかわいそうです。死者に口なし。確かにご主人がなぜそうしたのか、奥さんはどうやっても知ることができません。あるのは黙って浮気をしていて、その証拠を律儀に取っておいた、という事実です。
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