◎ふじい・たいよう 1971年生まれ。作家。
第1作目の長篇『オービタル・クラウド』を「ベストSF2014」へ投票していただいた皆様、ありがとうございます。第1位をいただいたことへの挨拶に代えて、本作に登場した宇宙機「スペース・テザー」と物語の背景を解説してみたいと思います。
まず紹介したいのは、本作の中心的なガジェットである「導電性テザー」の現実と、作中でイランの宇宙工学博士ジャムシェド・ジャハンシャが考案し、元JAXA職員の白石蝶羽が北朝鮮の力を借りて軌道に浮かべた「スペース・テザー」です。
宇宙空間に長い紐を伸ばすことで軌道の変更や姿勢制御を行う「テザーシステム」のアイディアは現実に幾度も試されています。
30メートルのテザーを伸ばして姿勢制御を行った1966年のジェミニ11を皮切りに、1985年には日米共同実験CHARGE2で426メートルの導電性テザーを伸張させて、プラズマ層から自由電子を吸収することに成功しています。
カナダでも1989年に958メートルのテザーを伸張したOEDIPUSと、導電性テザーによる軌道遷移実験を行ったOEDIPUS Cのミッションが実行され、1992年と1996年にはスペースシャトルで、イタリアとの共同実験によるTSS(Tethered Satellite System)衛星の実験が行われています。1996年のTSS実験では20キロメートルほどのテザーを伸張しています。
導電性テザーは推力は低いながらも安定して持続的な推進力を得ることができるため、JAXAはデブリのデオービット(軌道排除)のために導電性テザーをデブリにとりつけて軌道速度を殺し、大気圏に落とす計画をたてています。2015年打ち上げ予定のHTV(コウノトリ)で行われる実証試験では長さ700メートルのテザーを伸ばして、重力傾斜効果と起電効果(発電)、そしてローレンツ力による推力の発生まで、宇宙空間におけるテザーシステムのフルコース実験を行う予定です。
本作には、JAXAのWebサイトを見て導電性テザーの存在を知ったイランの研究者、ジャムシェド・ジャハンシャ博士が独力で考案したシステム「スペース・テザー」という宇宙機が登場します。
予算が自由にならない国にいるジャハンシャ博士は、キューブサットのような超小型テザー衛星を多数ばらまいて群体飛行によって何かができないかと考えていましたが、通常の導電性テザーには大きな問題があることに気づきました。
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