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クリス・ボイス『キャッチワールド』以来の高揚感—ヴァンダミア《サザーン・リーチ》3部作

突如世界に出現した謎の領域〈エリアX〉。そこでは異様な変化が起きていた――戻るか、引き返すか? 謎が謎を呼ぶSF3部作《サザーン・リーチ》が完結しました。まとめて読むなら今! の大型エンタテインメントをレビュウします。

ジェフ・ヴァンダミア〈サザーン・リーチ〉三部作
『全滅領域』『監視機構』『世界受容』(すべてハヤカワ文庫NV)

《サザーン・リーチ》3部作は「世界の起源」を問う小説である。正確に言うと、「世界の起源」を問うことに意味があるのか、起源を問いうるかが主題化される。


 突如として、地球上の一部が異様な領域と化す。〈エリアX〉と名づけられたその圏内では人知を超えた現象が起こり、人間を危険に晒す。しかし、主人公(たち)はその領域から目を背けることはできず、むしろ魅せられたかのように奥へ奥へと踏みこんでしまう。J・G・バラード『結晶世界』(創元SF文庫)、もしくはA&B・ストルガツキー『ストーカー』(ハヤカワ文庫SF)を彷彿とさせる設定だ。


J・G・バラード『結晶世界』(創元SF文庫)

A&B・ストルガツキー『ストーカー』(ハヤカワ文庫SF)

 物語に立ちこめる陰翳も似ている。伝統的なアメリカSFでは、時空の等質性や一律のパースペクティブが保証されている。どれほど異様な世界を設定したとしても、物理や技術や知識を介してこちら側(万人に共通の現実)へ変換可能なのだ。登場人物の感覚・認識もそこから逸脱せず、物語もそれに沿って進行する。しかし、バラード、ストルガツキー、そしてヴァンダミアが描く世界はそうした「見通しの良さ」がない。登場人物も読者も、鬱蒼とした森をさまようように、霧に閉ざされた廃墟を巡るように、作品世界を経験する。


《サザーン・リーチ》が『結晶世界』や『ストーカー』と少し違うのは、一縷の可能性が残されているところだ。『結晶世界』は内宇宙の本来性によって、『ストーカー』は不可知論の極点において、その異常領域の起源を問うことができなかった(そこには目的も意図もないとあらかじめわかっていた)。しかし〈エリアX〉には意味があるかもしれない。先へ進むことで異様な世界全体を展望できる地点へと抜けられるかもしれない。すべての謎が解けるかもしれない。主人公たちはその予感にすがって探索をつづける。

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牧眞司

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コメント

SiFi_TZK キャッチワールド以来、という煽りに不穏なものを感じてしまう(笑 5年以上前 replyretweetfavorite

tach_on_the_web いやあ懐かしい名前。『キャッチワールド』を知ってる人なんて殆どいないんじゃないかと思うが…当時は読んで度肝を抜かれたが今読んだら案外普通なのかな? 5年以上前 replyretweetfavorite

nog_plain 記事を読んでしまうと無性に読みたくなる、積本が増えていく! 5年以上前 replyretweetfavorite

ShindyMonkey 《サザーン・リーチ》と『キャッチワールド』の両方を読んでいる方、そんなふうに感じませんでしたか? ぼくだけかな。 https://t.co/91wDKQx0I4 5年以上前 replyretweetfavorite