「……黒谷さん?」
ぼくは彼をはっきりと思い出した。見た目は少し変わっているけどそうだ。黒谷さんだ。ぼくの数少ない歳上の知り合いの1人。ぼくは友達だと思ってるけど、彼のほうはどうかな……。
「3年ぶり? ん? 4年ぶりか?」
「たぶん4年ぶり、くらい……ですよね?」
「そうかー。背伸びたなー。そりゃそうか、あのときはまだシマくんたち小学生だもんな」
彼は笑いながらぼくの肩を叩く。
「知ってる子ですか」
女の人はさっきから
「うん。しばらくぶりなんだ。まさかこんなところで会うなんてなあ」
「どうします? 指導します?」
「悪い、俺が保護者ってことで、今日のところはさ。よく事情聞いとくから」
黒谷さんは女の人を拝むようにして頭を下げた。
「ほらシマくんも、お願いして」
彼はぼくの頭を上から手で押す。ぼくはわけもわからないままとりあえず「お願いします」と今度は自発的に頭を下げた。腰なんか90度に曲がっていたと思う。
「わかりました。じゃ、お任せしますね」
女の人は仕方ない、という感じのため息を小さくついて、先に歩き出した。黒谷さんに
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