koyori(電ポルP) /石沢克宜
第5回 タロー
「君は合格したからそんなことが言えるんだよ。まわりみんな選抜校に受かってさ、ぼくだけ落ちて1人義務校行くなんてさ。辛すぎるよ」 タローに当てつけるような言葉を、つい吐いてしまった。言ったところでどうしようもないのに。不合格はぼく自身のせいなのに。恋愛、友情、進路への葛藤――。大ヒットボカロナンバー『未来景イノセンス』の発売を記念して、一部を公開します。
「腹減ったろ? これウチの母親が。食えって」
タローが肉まんをお盆に載せて持ってきた。立ち食いの饂飩がまだ胃袋の中に入っていたが、熱々の湯気が香ばしく漂っているのを嗅いだらまた食欲がでてきた。
タローの部屋に来るのは久しぶりだ。この部屋に来るとまずはゲームをやる。タローはあまりゲームをやり込まないので、ぼくがハイスコアを更新するのが常だった。お互い受験勉強がきつくなってきて、とりあえず合格するまでは遊ばないようにしよう、と取り決めた。タローは合格し、ぼくは落ちた。部屋に入ったとき、タローの机の上に第二高校の入学手続き書類があって、そういうの隠しておいてよ、と思った。ぼくは気づかないふりで、いつものようにモニターの前に陣取ってコントローラーを掴んだのだった。
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この連載について
koyori(電ポルP) /石沢克宜
人々が空に住むようになった未来の世界。空中都市ホクトに住む中学生のシマは、幼い頃から好意を持っているミドリと同じ高校を受験するも失敗してしまう。好きな人や親友たちと離れ離れになる現実から目をそらすシマだが、時間は無情にも過ぎ去って...もっと読む
著者プロフィール
VOCALOID曲のプロデューサー。ロックやバラードを中心とした幅広い音楽性を持ち、 思春期の若者が抱える繊細な感情のような、情感溢れる世界観のある楽曲
を得意としている。投稿する楽曲動画のサムネイルはいずれも一枚絵で統一されてお
り、そのすべてに電柱が登場している。代表曲は『サイノウサンプラー』『独りん
ぼエンヴィー』『曖昧劣情Lover』など。
脚本家。ライター業や映像制作などを経て、現在は舞台の脚本を中心に活動している。舞台版『ココロ』の脚本・演出を担当し、ドワンゴ主催のニコニコミュージカル『ニコニコ東方見聞録』にも参加。コミカルでテンポのよい舞台に定評がある。ノベル版『ココロ』では舞台の脚本をベースに新たな物語を書き下ろした。