「うん。この子の名前。加賀谷ミドリだよ」
ぼくは写真を見直した。……思い出してみても全く覚えがない。
「このミドリって子があのとき、雲の下に地面があるって言ってたってこと?」
「確か、そうだろ。ナガトがな、すげー突っかかってってな。あいつ、ミドリのこと好きだったんじゃねーのかな」
ぼくはまじまじと、写真に映る小指の爪の先ほどのミドリの顔を見つめた。……髪が長く色白で、固く結んだ口が意志の強そうな、五月人形の若武者みたいな顔つきの子だ。
「幼稚園で同じ組ってことは、今うちの学校にいるってことだよね?」
ぼくは当たり前のことを敢えて口に出してみた。幼稚園が同じなら、小学校も同じ可能性が高い。
「学年名簿……ある?」
年度の始めに配られる学年の名簿をタローがお母さんから借りてきて、1組から名前を探した。彼女の名前はすぐに見つかった。
ミドリは3年1組にいた。
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