怪人20面相」に近い僕らの仕事──モーションアクター古賀亘②

戦隊ヒーローなどの“変身後”の「なかのひと」ってご存じですか? スーツアクターと呼ばれたりもします。
横浜で「活劇座」を経営する古賀亘さんも名うての「なかのひと」のひとり。そして世界的な「モーションアクター」でもあるのです。あの『モンスターハンター』 『鉄拳』などのメガヒットゲームは、彼なくして成立しなかったといっても過言ではありません。今回は、さらに深くその技術面について詳しくうかがいます。

『イン・ザ・ヒーロー』(唐沢寿明主演・武正晴監督)というスーツアクターを主人公にした映画が日本で公開された頃、主演俳優をアカデミー賞候補の対象とするべきかどうかで論争となったハリウッド映画があった。『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(マット・リーヴス監督)である。
 主人公の猿「シーザー」はCGで作られたものだ。画期的なリアルさを生み出したのは、スクリーンに映らない「モーションアクター」の存在があったからで、映画が話題となるとともに「影の存在」がガゼン注目を集めることになった。俳優が置かれている事情には違いがあるものの、「モーションアクター」はハリウッドでも今後注目の職業というのは確からしい。
※ 『イン・ザ・ヒーロー』『猿の惑星:新世紀(ライジング)』のDVDは、いずれも20世紀FOXより発売中


たったひとりで20人ものキャラクターを演じるには

古賀亘(以下、古賀) たとえば歩き方でも印象は変わります。踵から地面につけるのか、足の裏全体なのか。足の開き具合、つま先の向き、地面の蹴り方とかもキャラクターや状況によって変えていくんです。肩の揺らし方だとかも。形だけではなく、キャラクターの心と連動した、意味を持った動きにこだわっています。

── 動きを意識して切り替えるんですね。

古賀 プロとしてできているのはごくわずかで、これができるから職業として成り立っています。最初は意識していなかったんですが、仲間が仕事しているのを客観的に見ると、よくこんな難しいことをやっているなと思いますから(笑)。

── 仲間の現場というと、それは?

古賀 たとえば、細川桃仁(ホソカワ・トニー)という女性のアクターは、20人ほどのアイドルキャラクターを一人で演じるんですよ。

── 一人で20人のユニットを演じるって、ひとり芝居の「イッセー尾形」の舞台みたいだなぁ。

古賀 歩き方、走り方はもちろん、ガッツポーズなどの仕草や喜怒哀楽を込めた話し方も「この子ならこうするよね」という動きをキャラクターごとに演じ分けなければいけない。さらにこれがアクションゲームだと、格闘スタイルや使用する武器、攻撃やリアクションなど、それぞれのキャラクターの個性に合わせて何通りも変えないといけません。


「これができるのは君らだけだ!!」

── プロ野球選手でバットの持ち方、構え方によって「個性」が出るのに似ていますね。

古賀 もっと細かいですね。殴られたあとのリアクションだけでも、当たる前後の動き、吹っ飛び方、倒れ方まで変えますから。
 海外のスタジオで外国人のアクターを使ってモーション収録をされた方から、「古賀さんたちの仕事は世界一だ。対応力がちがう」とほめられたときは、うれしかったですね。

── 対応力というのは?

古賀 僕たちは一人で何人ものメインキャラクターを演じ分ける。そこにまず驚かれます。

── たしかに欧米の映画や舞台の俳優さんたちは、基本的に「一人一役」。まれに二役を演じるだけでも話題になったりしますから、一人が何役もとなると「いったいおまえは何者だ」と言われそうですね。

古賀 しかも「ここは尺がないので、次のヒット(攻撃)までに15フレームしかないんだよ」といったことを聞けば、状況に合わせ、現場でアクションを提案します。

── その場で考えるんですか。

古賀 そういうことはけっこうありますね。大掛かりなセットや仕掛けに頼らず、効率良くシンプルな方法を提案するとか。そのための準備として、必要となるかもしれない機材はぜんぶ現場に持ち込みます。だから、いつも荷物が多くて(笑)。
 そのぶん、「こういうことができるのは世界中で君たちだけだ」とか言われると、もう最高にうれしい。

── それはスタントやアクション体験のある誰もがやれることではない?

古賀 ないですね。

── 同業者のひとたちで、いまの古賀さんのポジションを目指すひとたちは?

古賀 いないと思います(笑)。というか、僕たちもオーダーに応えてやっていくうちに、だんだんとできるようになったんだと思います。

── 新しい仕事のジャンルということですか?

古賀 20年前には、「モーションアクター」という仕事はなかったですから。
「モーションキャプチャー」じたい、元々は医療や人間工学の用途で人の動きをデータ化するのに考えられたシステムだと聞いたことがあります。
 そのシステムをゲームの世界に応用し、それまではカクカクとしていたCGキャラクターの動きを、なめらかなで自然な動きで表現させることが可能になった。導入の初期に僕はご縁があって関わらせていただき、いまに至るんですよね。


モーションキャプチャーのある撮影現場 ©渡邉和弘


求められるのは「ホワイト」

── 特殊なだけに職業としての向き不向きはあると思うのですが?

古賀 モーションアクターの世界で重宝されるのは、演技の癖が強くない。色でいうと「白」がいいんです。つまり、役者として一番の長所である「個性」が強くないひとのほうがいいんです。

── 顔をだす俳優業と逆転していますね。

古賀 そうですね。僕はモーションキャプチャーに出会う前はオーデションの最終までは残るけど、主役はできずにきたんです。でも、主役になるひとと僕を逆にして考えたらわかるんですよ。

── というと?

古賀 古賀は主役も、そうでないものもどっちもできる。もう一人は主役以外だと成立しない。監督は二人を使いたいと思っている。結果、僕は主役から外れる。それをずっと繰り返してきたんです。

── それは一般的な役者としてみた場合、突出した癖のようなものが足りないということでしょうか?

古賀 それもあるでしょうね。そういうことを重ねてきて僕は「足りない」のを欠点だと思っていた。
 だけど、モーションキャプチャーの現場では足りないことがプラスになるんです。いくつもキャラクターを担当させていただく場合、アクターの個性とか、消せないほどの強い味はないほうがいい。

 ふいに古賀さんが立ち上がった。「たとえば」と胸を張り、呼吸をする。胸板の筋肉が上下する。「この動きをキャラクターごとに演じ分けることができてプロフェッショナル」だという。

古賀 いまのは「ブレス」といい、肺を膨らませたり萎ませたりしながら、胸や肩に動きをつけます。その際、動く箇所を意識して、1.2倍くらい誇張して表現します。

── ほんのすこしということですね。

古賀 そうです。その動きに合わせ、不自然にならないように肘や腕を絶妙に動かします。CGのキャラクターは、ピタッと動かないままだと生きているように見えません。この「ブレス」が入ることで、呼吸をしている感じが出てきます。
 単純な動きに見えるんですが、これだけでも相当トレーニングしないとなかなかできないんですよ。

── へぇー。おもしろい。

古賀 重心の位置や顎の角度、肩のライン、眼球の黒目の位置などでも、キャラクターを味付けすることができます。
 方向転換するだけの動作も、目線から先行するのと顔から先行するのと、武器から先行する、右足から先行するか左足からか、それぞれに15度ずつパターンのちがうものを演じることもあります。

── アトムのようなロボットを一体作るのに似ていますね。もともとの生身の人間の「動き」というのは相当難しい数値の組み合わせのように思えてきました。

古賀 そうかもしれませんね。単純な動きに見えるものでも、目的や感情を前提にして演じる場合と、いろんな場面で汎用的に使えるデータとして演じることもあります。じつはこれが難しい。

── というと?

古賀 たとえば周りに敵がてもいなくても使える歩き方や走り方、高くも低くも使えるジャンプや着地などの演技、前後左右どの方向から攻撃を受けた場合にでも使えるリアクションなどですね。とくに「前後左右」となると頭では理解することはできても、ふつうのアクターだと、どう表現したらよいか戸惑うことが多いですね。それと、ゲームで「プレイヤーキャラクター」と呼ばれるキャラクターは、ゲームをプレイするひとが性別や容姿、武器などの装備も自由に設定できるものもあるので、マルチに対応できる動きにしておかないといけない。

──  なるほど。

古賀 男性のキャラクターでも、女性のキャラクターでも、重たい鎧を全身にまとっていても、パンツ一丁の場合でも、「動き」として違和感がない。そうした様々な設定に合わせた、ゲームならではの細かいなオーダーがたくさんあります。


事務所は武器庫!?

「数学的な組み合わせ」によって成立する、これらのアクションの基礎となるデータが身体に記憶されている。そこが「古賀さんでなければならない」強みとなる。
 ゲームの武器は架空のものが多く、夜半に古賀さんは会社の相棒の杉原明さんとで「日曜大工のようにして手作りしている」という。そう聞けば「武器庫」を見たくなる。以降のインタビューは喫茶店から彼らの拠点に移した。

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顔のでないヒーロー「なかのひと」

朝山実

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コメント

waniwani117 顔のでないヒーロー「なかのひと」 4年以上前 replyretweetfavorite

waniwani117 「イン・ザ・ヒーロー」(武正晴監督)で唐沢寿明さん演じる、レジェンドアクターのモデルにして、「モンスターハンター」「鉄拳」のモーションアクターに聞く──古賀亘②| 4年以上前 replyretweetfavorite

mayanomi 自分の個性を消して、「動き」を演じきる…かっこいいい… 4年以上前 replyretweetfavorite

chikin_sp ホントね。活劇座さんはプロフェッショナルです。【 4年以上前 replyretweetfavorite