内なる自分と戦うのが、現代のファンタジー

現在、『テンプリズム』で初のファンタジー作品に挑戦しているマンガ家の曽田正人さん。そのもとに訪れたのは、曽田作品を愛してやまず、かつファンタジーRPGを多数手がけてきたゲーム業界の名プロデューサー2人。「ミリオンアーサーシリーズ」などを手がけるスクウェア・エニックスの安藤武博さんと、かつて「ドラゴンクエストシリーズ」に携わったDeNAの執行役員である渡部辰城さんが、「ファンタジーとは何か」について、曽田さんと語り合います。

ファンタジーの根底にあるのは“不幸”と“死”

安藤武博(以下、安藤) 僕はファンタジーってなんなのか、ということを、中学生、まさに、中二病全開のときに考えたんです。僕は非力で、思い通りに言えないことややれないことがたくさんあって、そういうみんなのかなわない欲求を物語にのせたのがファンタジーなのかな、と。だから、ファンタジーって登場人物が不幸であることが多いんですよ。

渡部辰城(以下、渡部) ああー、それはドラクエのゲームデザイナーの堀井雄二さんも言ってました。

安藤 あと、死がすごく近い。不幸と死はファンタジーの根底にあるものだと思います。『テンプリズム』(※1)の第1回を読んだとき、登場人物がいきなり死ぬじゃないですか。しかもけっこう戦闘シーンが激しくて、流血表現もある。僕はあれを読んで、曽田先生は本気でファンタジーをやろうと思っているんだ、と感じました。

※1 現在連載中の曽田正人先生の新作。創世記以来の歴史を誇るも、骨(グウ)の国の侵略を受けて滅亡したカラン王国。その再興の願いを託された王子ツナシの冒険を描く

曽田正人(以下、曽田) 今までのマンガに比べると、たしかに流血は多いですね。

渡部 ファンタジーにはよく魔法が出てきますよね。魔法と科学はどう違うのかについて、2ちゃんねるのスレッドで議論されていたんですね。そこに「誰でも使えるのが科学、血筋がないと使えないのが魔法」というすてきな書き込みがあって、なるほど、と思いました。血筋って抗えないもので、自分はやりたくなくても、血筋をひいているだけでやらざるを得ない状況に追い込まれる。『テンプリズム』の主人公・ツナシもそうですよね。これは、ファンタジー特有の世界だと思います。

安藤 現代では、実生活で血筋や家柄で縛られることって、もはやあまりないですよね。このように、時代によって共感を得られる設定って変わってくるものだと思っています。ゲームプロデューサーとして、死や不幸を取り扱うときに、どういうシチュエーションがトレンドに合うのか、どうしたら皆さんの共感を得られるのか、ということはよく考えます。

曽田 なるほど。

安藤 昔は死が身近にありましたよね。戦争があったり、身分の高い人にはむかっただけで殺されたり。そういう理不尽な死や不幸があると、ファンタジーは成り立ちやすいんです。例えば『パンズ・ラビリンス』というダークファンタジーの映画は、内戦後のスペインを舞台にしていて、独裁政権下で虐げられた生活を送る少女が、現実逃避のために妖精やおとぎ話の世界に入り込んでいくというストーリーです。

渡部 『ナルニア国物語』もそうですよね。戦争中の疎開先で、タンスを開けたら異世界・ナルニアに引き込まれる。

安藤 僕は、『水滸伝』もそういう意味でファンタジーだと思ってるんですよね。あの時代は、役人が税金を厳しく取り立てていて、政府に対する不満が募っていた。そこで、無頼漢が集まって国に立ち向かってくれたらいいな、という民衆の願望が伝承となり、それをひとまとめにしたら『水滸伝』になった。

「エヴァンゲリオン」と『テンプリズム』の違い
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本棚は人を表す、といいます。本連載は、さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人のもつ本棚、読書遍歴、本に対する考え方などからひも解いていこうという試み。本がいまの自分をつくったという人から、ほとんど本を読まない人の本...もっと読む

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TheTenthPrism 「今回は群像劇のようにしたいんですよね。だからこそ、出てくるキャラクター全員に対して、「その気持ち、わかるなあ」って思ってもらえるマンガを描いてみたい。」–曽田正人 鼎談記事はこちら! https://t.co/CJDzx6EEh6 http://t.co/JqXecPoOkM 6年弱前 replyretweetfavorite

masa_shoji 最新記事、公開!! |[今なら無料!]プロフェッショナルの考え方やつくられ方を、本棚や読書遍歴から探る! 6年弱前 replyretweetfavorite