ベネチア仮面祭りに一人で行ってきました!

行く理由を探すよりも行かない理由の方がずっと見つけやすい。お金がない、忙しい、準備が面倒。ベネチアなんて、いつか行けたらいいね、と思うくらいがちょうどいいかもしれないですが、ある人の言葉がきっかけで、ベネチア仮面祭りに思いきって旅立つことに。しかし、アラフォー女性は旅立つまでが長いようで……。この連載は、イラストレーターの近藤ゆかり(白ふくろう舎)がベネチア仮面祭りを実際に旅して見聞きした記録です。

旅の追い風

中国人なら、死ぬまでに一度は万里の長城を観光したいものだそうで、同じように日本人なら富士山に登ろうとかお伊勢参りをしようとか、屋久島の縄文杉を見ずには死ねないとか、「生まれたからにはあれだけは見ておこう」と思うものがあるだろう。

私は気が多い上に飽きっぽいたちなので、そういう場所ができては忘れていくけれど、今年になってふつふつと湧きあがってきたのが、「長年あこがれていたベネチアの仮面祭りに行きたい」という思いだった。

世界三大祭りと称されるらしい、世界中から観光客が集まる、街なかを美しくも不思議な仮面の仮装の人たちが練り歩くという、あの祭り。

なにしろイタリアの観光ガイドやサイトで「ベネチア」の項目をひらけば、ゴンドラと共にやたら気合の入った仮面の人々の写真がでてくるから、その手のものにまったく興味がない人だって「あーあー、あれね、あそこ行くんだ」くらいは思うだろう。そして、結構な数の人たちが、「ああ、私も行ってみたいんですよね!」とか「ベネチアでみました、素敵ですよね~」とか、好意的な印象をもっているのだ。

だから、という訳でもなかろうが、私が「ベネチアのマスカレードを観に行きたい」と行ったとき、周囲の人は

「いいじゃん、行きなよ!」

としか言ってくれなかった。止めてくれる人はひとりもおらず、そりゃもう、ものの見事に誰もが背中を押しまくってくれたのだ。

▲ベネチアサンマルコ広場周辺のお店。ウィンドウディスプレイが芸術的。この中に住みたい。借り暮らしたい。

しかし。

自分で行くと言っておきながら、いざあっさりと皆に認められると、なんだか急に腰が引ける。

だってね、私が行きたいこの祭りは、イタリアという国からしたら、非常に人気のないシーズンにおこなわれる。二月末から三月のヨーロッパは寒い。ついでにベネチアは水の都だからよけい寒い。三月と言えば計算に弱いフリーランスの私にとってカタキのような「確定申告」の時期でもある。仕事だって、お金だって、以下略。

「そりゃあ行けといいますよ、私だって他人になら。だけどさ…」

と、近所のギャラリー雑貨店「ニヒル牛2」でひとしきりボヤいていたら、店番 をしながらきいていたオーナーが真顔で「行きなよ。来年は行けないかもしれないよ」と、おっしゃった。

あ、衝撃。

本当にそうだ。仕事がある。片付けたい用事もある。お金は大して余っていない。準備も面倒だ し、そもそも海外旅行などめったに行かないから気持ちの整理、主に自 分への 言い訳が面倒くさい。留守の間に大きな仕事がきたらどうしよう。一緒に行って くれる人、今から探せるだろうか。そういう、「今行くことをためらう理由」よりも、彼女に言われて思い浮かんだ 「来年行けないかもしれない理由」のほうが、ずっと真に迫っていた。来年には、歳の割には元気な両親が、元気でなくなっているかもしれない。私の お金だって今よりないかも。予兆は全く無いものの、万が一私が結婚し ていた ら。そもそも自分の健康だって、環境だって、来年が今より自由な保障は何もな いのだった。

だいたい、私だけでなくこの国だって、来年同じとはかぎらない。経済だって、 世界情勢だって。たかだか個人旅行のことにそんな大ごとを持ちださないと思い切れない性格もど うかと思うが、その時は本当にそれくらいの気持ちで、「そうだ、今年、行くしかない」と思ったのだ。

ああ、友よ。大切なことを思い出させてくれてありがとう。そうだよね、自分の 人生一度きり。「今」もまた、いちどきり。

ネットばんざい

さて、行くとは決めたものの、ここ十年以上、仕事以外で長めの旅行など行っておらず、それより前は大抵しっかり者の友達とつるんで、旅の手配はおまかせ、そのかわりどこへ行こうと何を観ようと文句いいませんよ~というスタンスで過ごしてきたため、いざ自分で手配するとなるといきなり途方にくれる。

思い立ったのが祭りの一か月前で、しかも目的が目的(ただ仮面祭りをみる)だし、どうせ行くならそこそこ滞在しないと往復時間で旅が終わってしまうし…。という訳で同行者を探すのは早々にあきらめ、一人旅にシフトチェンジ。

海外一週間ひとり旅か。

心配性なくせに、心配しすぎると疲れてどうでもよくなるタイプだな、と自分に感心しながら、頼みの綱はネットの情報だ。格安チケットのサイトを検索し、イタリア行きの便を探すと、安いのはアエロフロートやカタール航空。乗り継ぎに十二時間はきびしい…行きも帰りも二日とられたらほとんど滞在できなくなっちゃう…かといって直行便なんて高くて手が出ない…と数社まわった結果、ドーハ空港で乗り継ぎのあるカタール航空のチケットに落ち着くことに。

ドーハってどこだ、そもそもカタールってどこだ、知っているのは「ドーハの悲劇」という言葉だけだ。その程度の知識でもチケットが購入できるネットは素晴らしい。どうせならと、ホテルつきチケットを選択。ホテルも、安さと口コミ、最寄駅からの距離、肝心のサンマルコ広場からの距離…(何しろ方向音痴なので駅から遠かったら絶対たどりつけない)、等を吟味し、「ADPLACE」というホテルに決定。

このホテルは、なにしろ祭りの中心となるサンマルコ広場から近いらしい。そして写真をみると、すごく内装が可愛い。口コミも、割と良い。そして、その割には価格が安い(チケットとセットの割引価格のようだ)。

ネットの口コミは、気にしだすとキリがないので、最後は自分のカンが頼り。

とはいえ、英語サイトを翻訳機能の助けを借りながら読んでいるので、常に一抹の不安はつきまとう。だが、現地についてからホテルを探すという荒業は若い頃の旅行で懲りているので、ここは手堅く事前予約をとるしかないだろう。それに、先にクレジットカードで支払いをすませておけば、持っていく現金が少なくてすむし(これも大事だ)。

スーツケースも買わなきゃいけないけどサイズは、メーカーは…、あ、あとコンセントはそのままつかえないんだっけ?それに、海外用のWiFiもレンタルしないと、ネットがつながらないと生死にかかわる(方向感覚とか、言語力的にとか)。

そういうことをつぶつぶと決めて行きながら、「ああ、なんか、本当にやりたいと思えば苦手なこともできるんだなあ…っていうかネット様様だわ…翻訳機能つけた人天才だ…大人になるって素晴らしい…」などと各方面をほめたたえつつ、本当にギリギリ、出発直前まで準備は続いたのだった。

▲ベネチア行きの前、年末に箱根ガラスの森ミュージアムにて。すでに十二分な浮かれぶり
▼待っていてね、こんな人たちや

▼あんな人たち

この連載について

ベネチア仮面祭り〜アラフォー女ひとり旅〜

近藤ゆかり

冬のイタリア。寒くて観光客も少ない季節。しかし、ただ一カ所異様な熱気に包まれる街があります。男も女も仮面で集い、お互いの仮装を鑑賞しあう奇祭。通称「ベネチア仮面祭り」に、ずっと憧れていたひとりの日本人女性が旅立ちました。憧れのフィルタ...もっと読む

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コメント

46296 数年前の旅の本展用に作った 7ヶ月前 replyretweetfavorite

chiruko_t そうやねん、”次があるとは限らない”と思うと行くしかないねん。  3年弱前 replyretweetfavorite

zato1234 このシリーズ気になる・・・ 3年弱前 replyretweetfavorite