イーサン・ホーク主演で「輪廻の蛇」が映画化されると聞いて仰天したSFファンは少なくないと思う。
そりゃまあ、原作は時間SFの名作として昔から有名だし、SF情報誌ローカスの「20世紀SF短篇ベスト」投票で堂々の第7位にランクインしているほどのクラシック。
しかし、ハインラインが1958年7月11日に、たった1日で完成させたというだけあって、見るからに一発ネタのひと筆書き。ふつうならありえないアクロバットの連続で、まさか、こんなのが長篇映画になるの?
小説の始まりは、1970年11月7日のニューヨーク、ポップ酒場(Pop's Place =「パパの店」「おやじのバー」の意)というさびれたバー。航時局のエージェントであるバーテンの“わたし” は、常連客である25歳の男、通称 “私生児の母” (映画の字幕では “未婚の母” )に話しかけ、“私生児の母” はやがて、驚くべき身の上を語りはじめる。いわく、「おれがまだ小さな娘だったころ——」
ここから先は未読・未見の読者のために伏せときますが、一卵性双生児のピーター&マイケル・スピエリッグ兄弟が監督したオーストラリア映画「プリデスティネーション」(2014)は、原作に忠実すぎるほど忠実に、この短篇に出てくるほぼすべての要素を(台詞を含めて)きっちり映像化している。「不完全な爆弾魔」 fizzle bomber に関するエピソードを加えてサスペンス成分を増強した以外は、余計なネタも入っていない(爆弾魔ネタのおかげで、ややM・ナイト・シャマランっぽくなってますが、それも、もともと原作に含まれていた要素のひとつではある)。
寄木細工とか知恵の輪とか、パズルじみた印象の強い原作に対して、映画は人間ドラマ部分をたっぷりふくらませているのが特徴。あんな無茶な話が、よくこんなまともな映画になったなあ……と脱帽するしかない。というわけで、原作を愛するSFファン諸氏は、ぜひ劇場に足を運んでいただきたい。
「プリデスティネーション」2月28日(土)より新宿バルト9ほかにて全国公開
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