ゾンビって誰のこと? ハインライン「輪廻の蛇」の謎

翻訳・解説・エッセイ・コラムと、SF界のオシゴトを縦横無尽にばりばりこなす超人・大森望氏。氏の〈SFマガジン〉誌上の連載コラム「大森望の新SF観光局」がcakesに出張! 知りたかったSF界のあれやこれやをcakesでもおたのしみいただける週刊連載です!(週1回更新)

 イーサン・ホーク主演で「輪廻の蛇」が映画化されると聞いて仰天したSFファンは少なくないと思う。

 そりゃまあ、原作は時間SFの名作として昔から有名だし、SF情報誌ローカスの「20世紀SF短篇ベスト」投票で堂々の第7位にランクインしているほどのクラシック。

 しかし、ハインラインが1958年7月11日に、たった1日で完成させたというだけあって、見るからに一発ネタのひと筆書き。ふつうならありえないアクロバットの連続で、まさか、こんなのが長篇映画になるの?

ロバート・A・ハインライン『輪廻の蛇』(ハヤカワ文庫SF)

 小説の始まりは、1970年11月7日のニューヨーク、ポップ酒場(Pop's Place =「パパの店」「おやじのバー」の意)というさびれたバー。航時局のエージェントであるバーテンの“わたし” は、常連客である25歳の男、通称 “私生児の母” (映画の字幕では “未婚の母” )に話しかけ、“私生児の母” はやがて、驚くべき身の上を語りはじめる。いわく、「おれがまだ小さな娘だったころ—」


 ここから先は未読・未見の読者のために伏せときますが、一卵性双生児のピーター&マイケル・スピエリッグ兄弟が監督したオーストラリア映画「プリデスティネーション」(2014)は、原作に忠実すぎるほど忠実に、この短篇に出てくるほぼすべての要素を(台詞を含めて)きっちり映像化している。「不完全な爆弾魔」 fizzle bomber に関するエピソードを加えてサスペンス成分を増強した以外は、余計なネタも入っていない(爆弾魔ネタのおかげで、ややM・ナイト・シャマランっぽくなってますが、それも、もともと原作に含まれていた要素のひとつではある)。


 寄木細工とか知恵の輪とか、パズルじみた印象の強い原作に対して、映画は人間ドラマ部分をたっぷりふくらませているのが特徴。あんな無茶な話が、よくこんなまともな映画になったなあ……と脱帽するしかない。というわけで、原作を愛するSFファン諸氏は、ぜひ劇場に足を運んでいただきたい。



「プリデスティネーション」2月28日(土)より新宿バルト9ほかにて全国公開
(C)2013 Predestination Holdings Pty Ltd, Screen Australia,
ScreenQueensland Pty Ltd and Cutting Edge Post Pty Ltd

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

SFマガジン

この連載について

初回を読む
大森望の新SF観光局・cakes出張版

大森望

翻訳・解説・エッセイ・コラムと、SF界のオシゴトを縦横無尽にばりばりこなす超人・大森望氏。氏の〈SFマガジン〉誌上の連載コラム「大森望の新SF観光局」がcakesに出張! 知りたかったSF界のあれやこれやをcakesでもおたのしみいた...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

nizimeta 映画化するから復刊したのか https://t.co/3uzxFVvQza 4年以上前 replyretweetfavorite

Ihsans_Shade ハインライン「輪廻の蛇」の謎 https://t.co/lnPvhF4qxU これか、小説の方は積んでた気がする 4年以上前 replyretweetfavorite

chise_soeno 『プリデスティネーション』の決めゼリフに出てくる「 5年弱前 replyretweetfavorite

kami_kazushige 「輪廻の蛇」は未読だけど、この記事 https://t.co/mKk3PebHgi を読んで、昔ヨコジュンかコーシンが何かに書いていた「ゾンビがくるりと輪を描いた」というフレーズのネタ元はこれだったのか! と膝を叩いたが、本当にそのネタを読んだかどうかも、いまいち自信がない。 5年弱前 replyretweetfavorite