坂口恭平のつくりかた

坂口恭平は「本の虫」よりも「虫」になりたい【第2回】

山形浩生さん、宮台真司さん、水道橋博士さんなどなど、数々の著名人をも唸らせてきた坂口恭平さんのロングインタビュー。小説『徘徊タクシー』を出版し、三島由紀夫賞にノミネートされた前後から、言葉の使い方が変わってきたという坂口さん。思考を空間化してテキストに落としこむ「建てない建築家」に、どのような心境の変化があったのか。そしてそれが最新作『現実脱出論』にどう反映されているのか。必見のインタビュー第2回。聞き手は九龍ジョーさんです。

『ジャンプ』作ろうとしたけど中身は読んでいなかった

— そうやって辿り着いた「物語」である『徘徊タクシー』(新潮社)が、三島賞みたいなきちんとした文学賞にもノミネートされたことで、いわゆる世間にも受け入れられやすくなったところはあるよね。

坂口恭平(以下、坂口) あと使う言葉が変わったのもあると思う。物語である以上、“指示はしない”んだけど、その代わり“自分の空間を提出する”。しかもそのときに、オレ独自の用語を使わないようになった。たとえば「都市のレイヤー」とか。使い方は間違ってないんだけど、オレの用法だったでしょ?

— たしかに「坂口語」として使っているところはあった。

坂口 でも、そうじゃなくて、誰でもみんな使っている言葉で書こうと思ったんだ。「アブラナの花びらにテントウ虫が乗ってる」っていうふうに。そのためには、いままで使っていた用語を再構成するし、再定義もする、と。

— たしかに『現実脱出論』(講談社)の居酒屋の広さの話とか、これまでにないくらいわかりやすかったね。お店の準備中は空間を狭く感じるのに、営業してお客さんが入ってワイワイしだすと、途端に空間が脹らむ感じとか。


現実脱出論(講談社現代新書)

坂口 それをいままではわかりにくくに書いてしまっていたの。たぶん「自分の考え」ってことを意識しすぎていたんだと思う。でも、自分を捨てられたんだ。というか、リアルに殺したんだね、自分を。それがたぶん2013年に、『幻年時代』(幻冬舎)を書いた前後の、強烈な鬱だった。あそこで、自分が消えて、空間をただ目の前のテキストに編みこんでいくっていうふうに転換したんだよね。でないと、自分がとんでもない状態になってしまう。『幻年時代』には、まだその混沌とした感じが残っているけど。

— その混沌が、『現実脱出論』『徘徊タクシー』という二つの方向性で整理された感じもあるね。

坂口 この二作は書いたのも同時期だったし。版元こそ違えど、オレの中では上下巻というか。『現実脱出論』を書いたことで、『徘徊タクシー』の意味が後からわかってきたような感じもある。よく自宅の部屋で、これまで書いてきた本を並べてみるんだよ。「これとこれが結びついていて、こうなって、このときは失敗して、流産したこれもあって……」とか、そんなふうに自分の本の家系図を辿ってみると、いろいろわかってけっこう面白い(笑)。

— どの本にも坂口恭平のある要素が流れ込んでいて、絡み合ってるからね。しかし、坂口の本はほぼすべて目を通しているけど、『現実脱出論』はとりわけぶっ飛んだ本だなと思った(笑)。

坂口 ふふふ(笑)。なんかね、『徘徊タクシー』はまだ「小説」って型に絡め取られたところがあってさ。物語という意味では『現実脱出論』のほうが飛べたんだよね。

— 『現実脱出論』はどのくらいで書いたの?

坂口 初稿に関して言えば、1日10枚で、25日。さらに2稿、3稿でガラガラと変わっていったところもあって。ほら、推敲を学んだんだからさ(笑)。で、最終的な執筆期間は3ヵ月ぐらいかな。

— 枚数を決めて、毎日コツコツ書くタイプだよね。

坂口 そういう自己管理能力は高いと思う。小学生の頃に、一人で『ジャンプ』を真似た漫画雑誌をつくろうと思ったことがあって。タイトルは『ホップステップ』って言うんだけど(笑)。まず本家『ジャンプ』の束の厚さを見てビビるわけよ。「どれだけ漫画を描けばこの厚さに届くんだよ!」って(笑)。ただ、1日1ページ描けば、30日で30ページ描けるってことに気づいて、ちゃんとやるんだよね。

— エライね(笑)。

坂口 でも、あるとき後ろの目次を見たら、『ジャンプ』って一人の漫画家が描いてるわけじゃないんだ! って気づくの(笑)。

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坂口恭平のつくりかた

九龍ジョー /坂口恭平

建築家、作家、ミュージシャン、新政府総理大臣、さまざまなジャンルを横断し、数々の人たちを魅了してきた坂口恭平さん。その名を世にしらしめることになった『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』のころから、編集・構成で関わってきたライターの九龍...もっと読む

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コメント

futaba51028 ギャルソン・ヒラク鈴木着てる、恭平さん、 かっちょいい。 @cakes_PR: 一人で「少年ジャンプ」を作ろうとしていた?! 坂口恭平さんインタビュー http://t.co/0tw7UBt0FV http://t.co/Mu8EiGLRuz 4年以上前 replyretweetfavorite

amayadori 坂口恭平さんのインタビュー読んだ。坂口さんの展示に行った時から夢画集が出ないかなあと思い続けてる。彼が見渡している感覚は興味深いな。インタビュアは九龍ジョーさん。 https://t.co/XxartVXsCk 4年以上前 replyretweetfavorite

hirarisa_ ジャンプ読んだことないけど一人でジャンプつくりたかった、中身は俺が書きたいから読んだことはない、ってすげーーロック https://t.co/ySnf2MHT8U 4年以上前 replyretweetfavorite

du_books 3/8(日)スタンダードブックストアで2人が語り合う!!  http://t.co/4q553joCBw @wannyan @zhtsss http://t.co/YBTxfEnP0e 4年以上前 replyretweetfavorite