なぜ高齢者向けの詐欺はなくならないのか

オレオレ詐欺など老人を狙った詐欺、通称「老人喰い」。その被害は増えつづけ、2014年1~11月では498億7343万円にのぼっています。なぜ老人詐欺は増えつづけるのか。その担い手は誰なのか。cakesでは2月に刊行された鈴木大介著『老人喰い』(ちくま新書)の中から抜粋し、毎週水曜に連載します。犯罪の深層をえぐり、社会の病を撃つ、迫真のルポをご覧ください。

高齢者は単純な“被害者” なのか

 平成25年版警察白書によれば、振り込め詐欺をはじめとする特殊詐欺犯全体における被害者の約8割が60歳以上の高齢者。そして総被害額は毎年ワースト記録を更新し続け、14年1〜11月だけで498億7343万円にのぼった。

 また、未公開株や公社債の契約を促す利殖勧誘、訪問販売や悪徳リフォーム工事、催眠商法に絡む特定商取引など、いわゆる悪質商法についても、全国の消費生活センターへの相談の7割以上(利殖勧誘事犯で71・5%、特定商取引等事犯で77・9%)が高齢者によるものだ。

 いまや高齢者を狙う詐欺犯罪や悪質商法は、止めどない勢いで広がりつつある。まさに『老人喰い』、百花繚乱の時代だ。

 だが、なぜなのだろう。本来敬まうべき高齢者を騙して稼ぐ人々がこれほどまでにいる。 日本人は美徳を失ってしまったのか? そこに罪悪感はないのだろうか? 誰にも親はいて、祖父母もいるだろうに。血も涙もないのかしら? 怖いわね。 他人事のように言う、当事者の高齢者たちに、問いかけたい。

「彼ら犯罪者があなたたち高齢者を狙うようになった原因が、あなたたち自身にあると考えたことはありますか?」

 返ってくる反応は容易に想像がつく。現代の高齢者は、戦後の荒廃から日本を見事に立ち直らせた。寝る間も惜しんで働き、子を生み育て、道を作り建物を建て産業を発展させ、 敗戦国から世界に名だたる経済大国にのし上げた。

 そんな国作りをし、ようやくリタイアして余生を送る自分たちの、その必死に働いて貯めた資産が狙われる理由が、なぜ我々にあるのか?

 正論。ごもっとも。だが、そんな正論をどれほど振りかざそうとも、どれほどに警察が彼らの撲滅に尽力してくれようとも、老人喰いはなくならない。これが、彼ら犯罪の加害者取材をしてきた僕の、率直な感想だ。

なぜ若者は老人を狙うのか

 ルポライターとして、僕の取材活動のメインフィールドは、貧困や虐待・育児放棄などの劣悪な家庭環境に育ち、社会の裏側で生きるようになった若者たちだ。触法少年少女、 犯罪の加害者たちの心情を聞き取り、社会から蛇蝎のごとき扱いを受ける彼らの抱えた痛みや苦しみを炙り出すことを一義として記者活動をしてきた。適切な教育も親の愛情も社会の庇護も受けられない中で、犯罪組織の中に取り込まれていってしまう彼らの青春を聞き取ってきた。

 だが、老人喰いの当事者は、決してこうした生まれ育ちの貧困が生み出した犯罪者とも言い切れなかった。親の愛を十分に受けた者もいる。大学教育を受けた者もいた。だがそれでも彼らは、明確な敵対感情を持って、高齢者に牙を剝く存在となっていた。なぜだろうか?

 老人喰いの頂点とも言える特殊詐欺犯罪に手を染める若者たちを取材してきて、僕が感じたのは彼らが「夜露の世代」だということだ。

 彼らと接していると、思い浮かぶのは砂漠の夜だ。想像してほしい。彼ら若者たちは、砂漠の中で渇いている。周囲にはすでに枯れたオアシスと、涸れた井戸があるのみ。今後雨が降る気配もなければ、自分たちで新たに井戸を掘るだけの体力も彼らに残されていない。ただただ彼らは、夜露をすすって乾きに耐えている。

 だが彼らの横には、水がたっぷりつまった革袋を抱えた者たちがいる。これが、高齢者だ。

 彼ら高齢者は自らの子供や孫には水を与えるかもしれないが、その他の若者には決して水を与えない。水を「貸し与える」ということもしない。少しの水を分けてやるだけで、彼らは自分たちで井戸を掘り、新たなオアシスをつくるかもしれないのにだ。

 ならばどうなる。渇き切った若者たちは、いずれ血走った目で高齢者の抱える水袋を奪いにかかるだろう。自明の理ではないか。

現代の若者の貧窮は「戦前以上」

 大きな誤解を解いておきたい。高齢者を狙う犯罪とは、高齢者が弱者だから、そこにつけ込むというものではない。圧倒的経済弱者である若者たちが、圧倒的経済強者である高齢者に向ける反逆の刃なのだ。

 豊かな高齢者は言うだろう。いくら渇いているといっても、現代の日本は先進国で、食べ物がなくて盗みや横取りをするほどの貧困にはないだろうと。

 だがそれは、世の中を見誤っているとしか思えない。現代は、努力をすれば必ず結果が出た高度成長期ではないのだ。彼ら若者は、どれだけ努力をしようとも、将来が安定するという確信が持てない。今日は食パンの耳すら食べられなくても、頑張ればいつかフルコースを食べる夢のあった世代と、今日は食パンの耳を食べているが、「頑張っても一生食パンの耳しか食べられない」という諦観に満ちた世代。渇きの度合いで言えば、現代の若者は戦後の貧困以上に渇いているかもしれない。

 お役所の統計には出ていないが、現代の大学生と話していて驚くことがある。「卒業したら、在学中の仕送りや学費を親に返す」という学生が、かなりの数でいるのだ。僕自身は73年生まれの第二次ベビーブーム世代で、苛烈な受験戦争世代で、就職氷河期世代だったが、いま思えばなんと恵まれていたのだろうと思う。少なくとも僕らの世代には「仕送りを親に返す」という発想は、さほど普遍的なものではなかった。

 具体的な数字をというのなら、奨学金を使った学生の、卒業後の困窮も問題だ。奨学金を返せないという理由で裁判を起こされた元奨学生の数は、04年の訴訟件数58件に対して、12年の段階では6193件と、100倍超の激増となっている。その失望感、閉塞感は、比較にならない。

 そんな中で、「マイルドヤンキー」「ソフトヤンキー」と呼ばれる新たな属性の若者たちにも注目が集まった。これは、高所得やキャリアアップを狙う人生よりも、低所得でも周囲の同世代や親兄弟と支え合う人生に価値を見いだす層のことで、マーケティングアナリストの原田曜平氏(博報堂)が提唱したものだが、いわば彼らは「諦観層」だ。

貴族に刃を向ける中世の民衆のように

 老人喰いの当事者の若者たちは、このとてつもなく分厚い停滞感、閉塞感の雲を、突き抜けた者たちだった。貧困世帯の出身者もいれば、中央集権社会・都市部集中型社会の中で見捨てられたかにみえる「貧困自治体」に育った者もいたし、大学進学までするも大卒後の就職難に喘いだ者もいた。

 そして、すでに老人喰いは高度に組織化し、彼らの牙を先鋭化するために教育し、その高いモチベーションで犯罪行為に加担するよう差し向けるシステムが出来上がっている。いわば彼らは、「経済的ゲリラ」。民衆の貧困など素知らぬ顔の貴族階級に刃を向けた中世の民衆と全く同様のルサンチマンを胸に、老人喰いを率先して行う。

 本書には、老人喰いの「防犯知識」は書かれていない。単に高齢者の自衛知識について知りたい読者は、本書を買う必要はない。だが読み進めれば理解できるだろうと思う。どんな防犯対策を施そうとも、この「階層化社会」がある限り、老人喰いはなくならない。特殊詐欺犯罪がなくなったとしても、彼らは別の手段で高齢者に牙を剝き続けるだけだ。

 また、これは高齢者の判断力の弱さを突いた犯罪でもない。彼らの中には、高齢者を騙して金を奪う完璧なまでのロジックが完成している。いまはまだ判断力も体力も充実している壮年世代も安心はできない。将来的な老人喰いのターゲットとして、確実にマークされている。

 本書では、その現場に生きる若者たちの実像を、そのギラついた情熱を、ただただ記そうと思う。

次回「どのように詐欺のプレイヤーは作られるのか」3/11(水)更新予定


老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体 (ちくま新書)
老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体 (ちくま新書)

この連載について

老人喰い—高齢者を狙う詐欺の正体

鈴木大介

オレオレ詐欺など老人を狙った詐欺、通称「老人喰い」。その被害は増えつづけ、2014年1~11月では498億7343万円にのぼっています。なぜ老人詐欺は増えつづけるのか。その担い手は誰なのか。cakesでは2月に刊行された鈴木大介著『老...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

noharra 「彼ら犯罪者があなたたち高齢者を狙うようになった原因が、あなたたち自身にあると考えたことはありますか?」https://t.co/BPynN1hKsB ないね。全共闘運動などの70年当時の反体制運動の異常な熱気と盛り上がりを、時代… https://t.co/4AC49jpncD 1年以上前 replyretweetfavorite

anatatachi_ohno >「彼ら犯罪者があなたたち高齢者を狙うようになった原因が、あなたたち自身にあると考えたことはありますか?」 1年以上前 replyretweetfavorite

abarabara10 @anbakurakoya 貧困男子のルポ本ではなく、老人を狙った詐欺の加害者のルポ本ではないですか?若者と書かれていて男性とか男子とか書かれてないような。あとこの記事では加害者の若者はかわいそうという論調ですよ。 https://t.co/Ct4n85tbDH 1年以上前 replyretweetfavorite