「知的生産力」と聞くと、どのようなイメージを持たれるでしょうか?
言葉の響きからいえば、「何かの作品をつくる」「独創的なアイデアを出す」といったクリエイティブな仕事に特化した話に聞こえるかもしれませんが、そうとは限らない応用範囲の広い話です。
・毎日の仕事の中で資料を作成してプレゼンを行なう
・大学入試や資格の受験を目指して勉強を続ける
・晩ごはんには何を食べようかと考えながら買い物をする……
そうした行動のすべてが知的生産の一種といえます。なぜかといえば、何かしらの目的をもって動いたならば、それがすでに知的なものになっているからです。
そういう行動のスピードとクオリティはどうなのか?
その部分に関する点数にも似たものが知的生産力だと考えていただくのがわかりやすいかもしれません。
つまり、「日々の目的をすばやくこなす能力」こそ知的生産力だといえるわけです。
だからこそ、この力を伸ばすことによって、仕事でも勉強でも家事でも、効率があがり、いい結果を出せるようになるということです。
私は現在、「起業家、教育プロデューサー」として活動しています。
46×78といった二桁×二桁の掛け算を六時間ほどでマスターできるようにする「岩波メソッド ゴースト暗算」を発案したことではずいぶん注目していただきました。これは小中学生から大人までが使えるものですが、そのやり方を知れば、単に暗算が得意になるだけでなく算数や計算が好きになります。
そこで問われるのは〝このメソッドを知っているかどうか〟ということです。
このゴースト暗算を知っていて、それを使いこなせるようになれば誰でも二桁×二桁の掛け算ができるようになります。
東大医学部生時代から教育プロデューサーとして活動を始めて、このゴースト暗算のほかにも、さまざまな勉強法や知的生産力を向上させるメソッドを考えて試してきました。この本ではそのなかでもとくに効果が大きかったと確信できる選りすぐりのメソッドを紹介していきます。
高三の春に私は東大模試を受けましたが、その際にはE判定(合格可能性=〇%~二〇%)という結果を出されてしまいました。しかし、最終的にはセンター試験で九〇〇点満点中八八一点を取って、東大理Ⅲに現役合格できました。それができたのは単に努力したからということではなく〝工夫〟をしていたからだといえます。
二〇一二年三月には東大医学部を卒業しましたが、その卒業試験では二か月で三六科目の試験を受ける必要がありました。しかもその時期には教育関係の本を書いていたので、どれだけ時間があっても足りないほどになっていました。
そのときにとくに「いかに時間を有効に使うか?」を考え、私自身が切実にその方法論を求めていました。
こうした時期に考え、実践していたメソッドも紹介します。
それは試験の点数をあげるためだけのものではなく、日常の知的生産力を高めるものになっています。
知的生産力の「三本柱」とは?
知的生産力の三本柱は、「持ち時間」「集中に入る力」「集中を継続する力」です。
最初の要素となる「持ち時間」は、一日のうちに〝実質的に知的生産に充てられる時間〟を指します。
たとえば一日の睡眠時間を六時間とする場合、二四時間から六時間を引いた一八時間が物理的に持っている時間です。
しかし、通勤などの移動や食事など、毎日の欠かせぬ行為によって持ち時間はそこからどんどん目減りしていきます。
仮に通勤に往復二時間かかり、ほかにも細かい移動が一時間あり、三度の食事に二時間、入浴に三〇分かかるとします。さらに朝起きてボーッとしている時間が三〇分あり、一時間遊んで、一時間ダラダラしていて、そのほかに細かいところでロスする時間をまとめれば一時間になるとすれば、それらをトータルすれば九時間になります。
そうなれば一八時間マイナス九時間で、一日の実質的な持ち時間は九時間しかないことになります。一日二十四時間の四割にも満たない時間です。
そうしたリズムで一〇年間を過ごしたとすれば、知的生産には四年分の時間しか充てられないことになります。
同じ仕事や同じ勉強をしているつもりでも、どんどん差がついていくことがあるのは、持ち時間が原因となっている部分も大きいものです。
一日に九時間を生産に充てて生きている人と、一日に一五時間を充てて生きている人では差がついていくのは当然です。そのため、作業の効率を高めようとするだけでなく一日の持ち時間を増やすように考えることが重要になります。知的生産力を高めるためには最初に見直したい部分といえます。
次の要素となる「集中に入る力」とは、普段の状態から集中モードに切り替えるための力を指します。
仮に一日の持ち時間が同じだったとしても、一分で集中状態に入れる人と、二〇分かかる人をくらべれば、その差は歴然とします。すぐに集中状態をつくれる人が、より高い知的生産力を発揮できるのは道理です。
最後の要素が「集中を継続する力」です。
言葉どおりなので説明はいらないかと思いますが、ここで問われるのは、集中状態をいかに長時間持続できるかです。せっかく集中状態に入れたとしても、それが三分で終わってしまったのでは知的生産力は上がりません。一時間、二時間……、五時間、六時間……と集中状態を継続できてこそはじめて知的生産力は最大化されます。
つまり、「一日の知的生産力=一日の持ち時間×集中に入る速度×集中を継続できる力」という方程式が成り立つわけです。
そうだとすれば、「一日の持ち時間を増やすこと」と「集中のパフォーマンスを向上させること」を両面から考えていくアプローチが重要になります。
そのためにはどうすればいいのか?
それもまた、二桁×二桁の掛け算ができるかできないか、の違いと同じです。
要するに、それをできるようにするための「メソッドを知っているかいないか」、「それを実践しているかどうか」に関わってくるのです。
これからの連載で紹介するメソッドを実践していけば、さまざまなところで変化があらわれ、あなたの知的生産力は確実に向上するはずです。
次回「脳の働きを高めるには「余計なことを『切り捨てる』」、2/23(月)更新予定。
東大医学部卒、「岩波メソッド ゴースト暗算」を考案して話題となった岩波邦明さんの『超・知的生産法』、3月6日(金)発売予定です!