遺産問題で崩壊した家族—財産を残して逝くのか、文なしで身軽に旅立つか

昨年から世間を騒がせている、某有名歌手や某大物俳優の遺産相続問題。財産を持っている人ほど、自分が死んだあとのお金の問題については、元気なうちに決めておかないとトラブルになりかねないことが、よく分かります。本日発売の『死ぬまでに決断したおきたいこと20』から、1,000人以上を看取ってきた医師・大津秀一が、お金を持っていた人、何も持っていなかった人の事例を引用して、どちらが幸せだったかを考えます。

お金の使いどころを知っておく

がんの患者さん同士が「やはりお金は大事よね」、なかには「お金が〝一番〟重要よね」と話し合っている姿を見ることがあります。

たしかに、お金は重要です。お金があると、治療や介護の選択肢が増えるからです。ただし、意外と知られていないことですが、高額療養費制度を利用すれば、「どんなに医療費がかかったとしても」、1ヶ月に数万円で収まります。この制度を利用したいときには、自分が加入している公的医療保険に申請する必要があります。厚生労働省のサイト内の「高額療養費制度を利用される皆さまへ」で、詳しく説明してありますので、参考にしてください。

そうは言っても、終末期の現場では、患者さんたちが医療費や介護費をできるだけ使わないように、細心の注意を払われている姿をよく目にします。もちろん、できるだけご家族にお金を残したいというお気持ちもあるのでしょう。

ただ、その結果として、緩和ケアを受けるお金をケチって苦しんだり、介護にかかるお金を節約して、本当は家で過ごしたいのに、我慢して病院で最後の時間を送ったりなさっているのを見ると、残念になります。余命が数ヶ月と推測される状況になったら、必要な緩和ケアや介護のために、ぜひお金を投入してもらいたいと思います。それは、「今」使うべきお金だからです。

たくさん持っている人ほど苦労する!?

「俺は何もないから……幸せだねえ」

60代男性の山田さん(仮名)は、ポツリと言いました。

山田さんは独身です。一度結婚していますが、長続きはせず、定年を迎えてホッとした途端に、死病におかされてしまいました。年の離れたお兄さんとは疎遠で、もう何10年も連絡を取っていません。誰も頼る人がいないのですが、彼は苦にならないようです。

山田さんと対照的に、同じ60代男性の深瀬さん(仮名)は、中小企業の経営者で、奥さんと息子さん、娘さん、そして5人のお孫さんがいて、はためには財産にも家族にも恵まれた方でした。

ところが、深瀬さんのがんの進行とともに、これまで保たれていた微妙なバランスが崩れ始めました。体力に不安がある奥さんと、実質的に会社を継いだ息子さんのかわりに、介護を担当していた息子さんのお嫁さんの負担が増えてしまったのです。

一方で、深瀬さんに可愛がられ、会社の後継者である兄よりも金銭的な遺産を多く譲られることになっている娘さんは、少し離れたところに嫁いでおり、それほど頻繁に病院には来られません。来るたびに悪化する父の様子に、娘さんは不信感を募らせました。

「ねえ、お義姉さん、何か急に父さんの具合が悪くなっているんだけれど」

「……病気だからね。私たちも頑張っているんだけれども」

「やせたねえ、父さん。ちゃんと食べてる?」

「あまり食べないわね。どうしてもがんだからね」

お嫁さんは、がんが進行し、あまり食べられないこと、食べられたとしても衰弱は進んでしまうことがあると説明されています。毎日のように来ていますから、これまでの経過も腑に落ちています。

しかし、娘さんにはそれは分かりません。こっそりと母に義姉がちゃんと介護をしているか問いただしたところ、そのことがお嫁さんの耳に入ってしまいました。

「あの……ずっと言おうと思っていたんだけれども、お義父さんのこと、結構大変なのよ。私たちだって一生懸命やっているけれども、これは病気だから仕方ないの」

「仕方ない……まあ、お義姉さんとは血がつながっていないですしね」

言ってはいけないことを言ってしまいました。こうなると、これまで積もりに積もった不満が噴出します。

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死ぬまでに決断しておきたい10のこと

大津秀一

ひとは必ず死を迎えます。ところが誰も、自分が死ぬときのことは想像したくありません。さまざまな決断を先延ばしにして、生きているのです。ただし、実際に死ぬ間際になったら、ひとは驚くほど何もできない。そのときになってから、いかに多くのことを...もっと読む

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