平田オリザ「どんなに準備不足でも、定時に“幕が上がっちゃう”のがいいところ。」

劇作家として、演劇界を常にリードしている平田オリザさん。その戯曲が中学校の国語の教科書にも掲載されるなど、教育の現場でも平田さんの言葉は広く読まれています。高校生のための舞台を作ったり、コンクールの審査員も務めている平田さんに、「高校演劇」という知られざる世界のおもしろさを語っていただきました。

平田オリザがいま輝いている3つの理由

演劇界を一変させた先駆者!
芝居がかったセリフではなく、日常的な話し言葉で作品を紡いでいくスタイル「現代口語演劇」を確立。その手法は、後の演劇界の大きな潮流になりました。

処女小説がももクロ主演で映画化!
2012年に出版した処女小説『幕が上がる』は、主演にアイドルグループのももいろクローバーZを迎え、映画化されました(公開中)。

世界初の「ロボット演劇」を上演!
ロボット工学で有名な石黒浩教授と共同で、ロボットが人間の俳優と共演する世界初のロボット演劇を上演。ロボットと人が一緒に暮らす社会を描きました。

バラバラな集団の方が、結果的にサスティナビリティがある

— 平田さんは高校演劇にも深く関わられてますが、高校演劇のおもしろさってなんですか?

平田オリザ(以下、平田) 負けたらそこで終わり、ということですね。高校演劇のコンクールって、地区の予選を勝ち上がって、全国大会に出るという方式なんです。
 これがスポーツだったら、負けてもまた競技を続けられますよね。でも、演劇はそのメンバーで同じ演目をやれるのは1回きりです。

— 最終日がいつになるか、わからないままやり続けなければいけない。

平田 普通のプロの芝居だったら、いつ終わるかわからないことなんて、ありえないことですよね。だから、高校演劇は勝っても負けても、みんなすごく泣きますよ。他のスポーツの大会より泣いてると思います。

— ちなみに、高校演劇で勝ち上がっていく学校って、どういうところですか?

平田 全員に居場所のある部、ですね。これはもう、確実にそうなんです。それが演劇のおもしろいところ。
 もし野球だったら、練習試合でメンバーを変えてみたり、がんばってるやつを試合に起用してみる、ということができますよね。でも、演劇は配役が決まってるから、途中で変えられない。その状態で2ヶ月とか長い期間、稽古をしないといけないんですよ。

— 野球のように、いいピッチャーがひとりいればある程度は勝てる、ということは起きないんですね。

平田 そうです。とにかく脇役もフォローに回って、全員がちゃんと舞台に貢献するような雰囲気を作らないと、絶対に勝ち上がっていけないんですね。

— 演劇を部活でやるということ自体が、コミュニティー作りの能力をかなり要求されそうですね。

平田 そうそう。だから、部活で演劇をちゃんとやってきた子は、やっぱりしっかりしてますよ。人を動かしながら、自分もちゃんと働くということができる。
 劇団員でも、優秀なやつはすぐにバイトでコンビニの店長とかに誘われちゃうんです。それで、演劇を続けるかコンビニの店長になるか、人生迷っちゃう(笑)。

— あはは! 平田さんは、詩人の金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」という言葉を引き合いに出して、「本当は『みんなちがって、大変だ』なんだ」とおっしゃっていますね。

平田 はい。「みんなちがって、みんないい」って言えるのは、やはり村社会、島国の中だけ通じる話ですね。みんなが同質化していくような社会の中でだけ言える、楽観的な言葉です。でも、イスラム国を前にして、そんなこと言ってられないですよね。

— お互いに許容できないほど、価値観の差がありますね。

平田 だから大変なんです。日本の中でも、これからますます価値観もライフスタイルも多様になっていきますから、従来型の一致団結を求めるコミュニケーションは通用しません。
 バラバラな価値観を持った人間たちが、バラバラなままなんとかやっていかなきゃいけない。そのための能力を、僕は「社交性」と呼んでいるんです。

— 価値観を合わせようとしない、ということですか。

平田 まぁそうですね。価値観は違うけど、お互いの存在を認めて一緒にいるということです。そうした社交性を育てるには、演劇は非常にすぐれた教育ツールなんですよ。
 バラバラな人間が集まってなにかやるっていうのは大変なことなんだけど、高校演劇なんかを見てても、結果的にいい作品を作る学校は、みんなそういうところなんです。

— バラバラな人間が集まった集団のほうが、いい作品を作れる?

平田 そうです。なぜかというと、バラバラな集団の方が、結果的にサスティナビリティ(持続可能性)があるから。
 みんな同じような人間だと、うまくいっているときはいいんだけど、何かダメになったときにみんなで落ち込んじゃうでしょ。そんなとき、場を盛り上げるやつとか、新しいアイデアを出すやつとか、いろんなやつがいないと続かないんですよ。そして結果的に、持続して稽古を続けていける学校の方が、パフォーマンスが上がるんです。

— なるほど。それは演劇だけじゃなく、社会のあらゆることに言えそうですね。

平田 しかも、演劇のいいところは、どんなに準備が足りてなくても時間が来ると幕が上がっちゃうところ。まさに『幕が上がる』という小説のタイトルどおり(笑)。それでみんな、時間が足りなくて痛い目を見ながら、だんだんタイムキープできるようになるわけです。
 よく、真面目な学校の先生ほど、「とことん話し合え」って言いますけど、それも村社会の理想論です。現実には、話し合って答えが出る問題なんてないですからね。

— 確かにそうですね。そして、世の中の問題のほとんどが、いついつまでに答えを出さなきゃいけないっていうタイムリミットがありますね。

平田 そう。だから、答えの出せない問題に対して、一定時間内に集団でベストを尽くす、ということが大事なんです。正解は出せないかもしれないけど、なんとかやっていくしかないんですよ。演劇を作るということは、まさにそういう行為なんです。

日本の演劇人の精神は、いまだに途上国の人間みたい

— 平田さんは海外でのお仕事も多いですが、時間を守る感覚など、国によってずいぶん違いますよね。

平田 違いますね。まず、「開演時間」の前に「開場時間」が指定されているのは、日本くらいですから。イタリアなんかは一番適当で、客がなんとなく集まってきて、ハグしてお酒を飲んだりべちゃくちゃ喋ったりしている。「これいつ始まるんだろう?」なんて思ってると、なんとなくみんな集まったかなっていうタイミングでぱっと劇場が開いて芝居が始まる(笑)。

— 日本人の感覚だと、待ってる間にそわそわしちゃいそうですね(笑)。

平田 僕はフランス人の俳優と何度も芝居を作ってるんですけど、彼らを日本に呼ぶときも、まず「ここは日本だから、稽古をする時間も休憩時間も決めないと進められないんだよ」っていうことを説明しないといけない。

— フランス人は決めなくても進められるけれど、日本ではそれじゃうまくいかない、と。

平田 そう。ただ、僕は来年(2016年)の1月にドイツのハンブルグでオペラを上演するんですけど、ハンブルグからは「上演の何日前の何時何分からリハーサルをやる」というような詳細が、もう送られてきました。
 ヨーロッパでもひとつではないんだなと、あらためて思いました(笑)。

— その多様性も、ヨーロッパの歴史を成り立たせている要素ですね。

平田 東南アジアだって、国によってぜんぜん違いますよ。たとえば、短い芝居を作るワークショップをマレーシアの学生とすると、説明してる途中で「やろうやろう」って言うんです。でも、やってみたら全然できない(笑)。

— 説明を聞いてないから(笑)。

平田 そうなんです。逆に、タイの学生はシーンとしてるから、「こいつら本当にわかってるのかな?」と思うんだけど、ちゃんと最後まで説明を聞いてるからきちんとできる。インドネシアの学生は、説明を始める前からやっちゃうんだけど、こっちは身体能力が高いから、なんとなくできちゃう。

— 本当に全然違うんですね。東南アジア諸国は、経済成長が著しいですが、経済状況と演劇は関係しますか?

平田 多少は関係しますね。演劇が文化として成り立つためには、中間層が成立しないとダメですから。
 たとえば、10年くらい前のマレーシアなんかでは、演劇をやってる人は親が金持ちでイギリスに留学していたというような人。それか、逆に芸能を生業としてきた貧困層です。
 演劇が文化として成り立つためには、中間層が成立しないとダメなんです。

— 演劇は、富裕層の人だけのものだったんですね。

平田 そう。中間層が成立しないと、普通の市民が普通に演劇をやるという状況は生まれないんです。今、東南アジアでそんな国は、シンガポールとマレーシアくらいですけど。タイもそれに近づきつつある。

— そういった国と比べた時に、日本はどうですか?

平田 日本はアジアの中ではちょっと特殊ですね。経済大国ですから、演劇を受容する層もちゃんといるはずなんですけど、他の先進国のようには広がっていません。日本は先進国の中では非常に珍しいことに、学校教育で演劇を教えてこなかったですから。

— 欧米の先進国や韓国では、教育の現場で演劇が教えられていますね。

平田 そう。だから、日本の演劇人というと、いまだに精神的には途上国の人間みたいなんです。だから、よく貧乏自慢をしてるでしょ(笑)。テレビでも、貧乏人=演劇人って取り上げられる。あれ、やめてほしいんですよね(笑)。


さらなるインタビューが、dmenuの『IMAZINE』でつづいています。
「神も心も存在しないと思ってる。」
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平田オリザ(ひらた・おりざ)

1962年東京生まれ。16歳から17歳にかけて、自転車で世界一周旅行を達成。国際基督教大学に在学中、劇団「青年団」を旗揚げ。日常的な口語による劇作を「現代口語演劇」として理論化し、演劇界の大きな潮流を作る。1995年、『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞。演劇作品のほかに、コミュニケーション論を記した『わかりあえないことから』など、著書多数。現在、東京藝術大学・アートイノベーションセンター特任教授などを務める。

構成:西中賢治 撮影:加藤麻希


幕が上がる (講談社文庫)
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わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書)
わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書)


『幕が上がる』
2015年2月28日より新宿バルト9他にて全国ロードショー!

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いま輝いているひと。

cakes編集部

あの人は、どうして輝いているのか。いま目が離せないあの人に、たっぷりお話を伺います。

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コメント

tezukagoseon https://t.co/8tfoMv7dEN 2年弱前 replyretweetfavorite

rksam_33go オリザさんインタビュー。この人は書いても話しても、本当に面白い。 2年以上前 replyretweetfavorite

sayuh09 高校演劇についてとかいいことちょっぴり書いてある。 2年以上前 replyretweetfavorite

39ra3944 読んだら映画「幕が上がる」をさらに観たくなった。 教育と演劇の関係なんて考えたこともなかった。 平田オリザさんは男の人だったよ。 約4年前 replyretweetfavorite