服用前の注意「過剰な想像力が徒労に終わることもある」
日本で文豪と言えば夏目漱石。中国で文豪と言えば間違いなく魯迅です。
その魯迅の作品に『父の病気』という小品があります。この作品には次のようなことが書かれています。
魯迅の父親は魯迅が少年のころに重い病気にかかっていました。
当時、魯迅の生家の家計は悪化してはいましたが、祖父が高級官僚であった縁で、地元で名医と言われている医師に診療してもらいます。
しかし病気は悪化してしまいます。ひとり目の医師は、自分の手には負えないと覚り、別の医師を紹介します。
二人目の医師は、奇妙な漢方薬をいくつも処方します。
そのうちのひとつが、今回紹介する「
『集古十種 楽器之部 上』松平定信 編(国立国会図書館デジタルコレクションより)
その後の経過
ふたり目の医師の治療も効果がなく、魯迅の父親は亡くなってしまいます。
魯迅は父の死後、日本に留学して西洋医学を学び、さらに文学者に転じます。
それだけに「敗鼓皮丸」に対する魯迅の評価は皮肉に満ちています。
魯迅の父親の病気は全身がむくみ、腹水が溜まって腹が膨らむ病気でした。このような病気を漢方用語では「
この「鼓脹」という病名(西洋医学では「症状」と呼ぶのが正確ですが漢方では「病名」の一種です)は、「太鼓のようにふくらんでいる」という意味です。
敗鼓皮丸は文字通り「やぶれた太鼓の皮」で作ります。太鼓が古くなると、たたいているうちに皮が破れてしまうようで、そのような破れた皮を保存しておいて、薬として利用したようです。
魯迅は、お腹が太鼓のようにふくらんでいるから、やぶれた太鼓の皮が使われた「薬」を使えば治るという、名前からの連想にすぎないと批判しています。
魯迅は少年時代の看病の体験を振り返って、漢方に対する強い猜疑心を持つに至りました。魯迅ほど尊敬されている人が漢方に疑いの目を向けたことは、現在に至るまで大きな影響を残しています。今でも中国の漢方反対派は「魯迅も反対していた」と引用するほどです。
魯迅も知らなかった効能
敗鼓皮という奇妙な薬は、実はかなり古くから使われていました。
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