誰もが主人公になれる小説です
いきなりですが、なぜ村上春樹の小説は世界中で人気があるのでしょうか? 大の春樹ファンとして知られる思想家の内田樹さん、教えてください!
「村上さんは読者の身体的共感を呼ぶのがうまいですね。情景描写など、視覚情報を伝えるのがうまい書き手はたくさんいますけれど、匂いや触感を文章で緻密に再現できる作家はまれ。 だから、村上さんの小説で登場人物がビールを飲む場面があると、ビールを飲 みたくなるし、パスタを茹でる場面があると、パスタが食べたくなる」
『ダンス・ダンス・ダンス』が大好きだという内田さん。「僕も何杯ピナ・コラーダを飲んだことか」と笑います。 たしかに、村上春樹の小説を読んだ後は、無理なお願いに「やれやれ」とつぶやいてしまったり、 世の中のニュースに対して「そういうものだ」なんて言ってる自分がいるかも。
「生まれてから一度も雪に触れたことのない熱帯の人でも、『ダンス・ダンス・ダンス』の冬の札幌の描写を読めば、たぶん空気の冷たさが実感できると思う。日本のローカルな場所について書かれているのに、それが身体的に切迫してくる。だから世界中に読者がいるんだと思います」
圧倒的文章力で読者の共感を呼ぶから、誰もが〝自分のこと〞として読んでしまうのです!
アイロンかけひとつで世界が変わる!
村上春樹の小説に登場する主人公は、みんなとてもきっちりと家事をこなします。例えば、『ねじまき鳥クロニクル』の主人公はアイロンかけの工程が全部で12もあるし、『羊をめぐる冒険』の主人公は山小屋を 6 枚もの雑巾を使って丁寧にワックスがけしてみせます。さらに、『ノルウェイの森』の主人公は大学の寮暮らしにもかかわらず、「毎日床を磨き、三日に一度窓を拭き、週に一回布団を干す」。内田さん、これってなぜですか?
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