すり抜けツッコミドヤ顔論法」の不毛な議論はもうやめよう

福島の農業を語るときに、最低限必要となる「放射線」の話をしてきました。しかし、その上で、「福島の放射線の問題」を語るには、単に「放射線」の話だけをしていては足りないと、社会学者の開沼博さんは考えます。どういうことでしょうか。いよいよ今回と次回で、農業と放射線の話に区切りです。

「福島の問題=放射線の問題」に矮小化するな

「福島の放射線の問題」は、「放射線の話」だけ語るのでは不足がある。どういうことでしょうか。
 例えば、 私たちは日常的に「検出限界値以下のセシウム」以外の放射性物質を摂取しているし、放射性物質以外の身体に害があると思われる物質を摂取しているということにも目を配るべきでしょう。

 しかし、既に述べた放射性カリウムの話もそうですが、こういう話をすると「放射線の危険性から目を背けさせようとしている! 安全寄りの議論だ!」と言われたりしがちです。

 たしかに、震災直後に、タバコのリスクと放射線のリスクを比べて「安全ですよ」と言う科学者に対して、放射線が心配な小さな子を持つ親たちが「子どもはタバコ吸わねーし」とツッコミ入れていた。
 これは全くその通りのツッコミで、科学的な説明としてあまりにも安直で、かえって不信と不安を増大させて混乱を招いたことだと思います。

 ただ、過剰に「放射線の話」をモンスター化して、「それだけが、特別に怖い、危ない。それ以外のリスクは放射能に比べたらたいしたことない」という「被曝回避原理主義」も、また問題を起こします。
 元にある「福島の放射線の問題」が「危ないはず」なのか、「必ずしも危なくない」のかは、そういったものも考慮した上で判断する必要があります。

 例えば、以前に触れた「元からある放射性カリウムは仕方ないけど、3・11後にできた放射性セシウムが微量でも入っていることが気になる」という話ならば、それはもちろん尊重されるべき感覚です。
 実際に、そういう方の中にはセシウムが限りなくゼロに近いものをネット通販で買うなどの対応をしている方もいます。
 ただ、それだけが食の安全・安心にとって重要なのかというと、そうではないことも認識すべきでしょう。

 食の安全・安心や選択の自由を支える仕組みは、放射線の話を越えて重要なテーマです。
 そもそも、3・11前から、放射性物質に限らず食品の安全・安心に気を使う人はいました。農産物の輸出入の自由化が進み、外食・中食産業が急速に発達する中で、「遺伝子組み換え作物」や「輸入食品の農薬」など食品に関する問題が断続的に報じられてきました。

 そんな中で、産地や栽培方法などを消費者も把握できるようにする「トレーサビリティ」の考え方が広まり、スーパーや飲み屋でも産地・生産者の名前などを表示することが一つの付加価値になってきました。
 有機農業・低農薬農業などを積極的に選ぶ消費者の意識も少しずつ高まってきて、「パルシステム」とか「らでぃっしゅぼーや」「オイシックス」みたいな、安全・安心を確保した食品の宅配サービスも広がってきていました。これは3・11前からの動きです。

「3・11で目覚めた」系ではなく、そういう「元から意識高い」系からしたら、例えば、「米にはヒ素とか、農薬とか入っているから、そもそもリスクがいっぱい」というような議論もあります。
 これはこれで、「ほとんど毎日食べる米から体に摂取され蓄積されたら人体に多大な害を及ぼすかもしれない」と言われ続けてきた「大問題」です。

 そこらで売っているパンや麺類、スナック菓子など色々な食品に入っている、小麦とかトウモロコシとかは輸入に頼る部分も大きいですが、はたしてこれは安全なのか、という疑問も常にあった。
 そういう中で、「元から意識高い」系の中でも、「微量のセシウムは気にならない。むしろ、安全・安心意識高い福島の農作物を食べて応援!」という人も、「微量であるとしてもセシウムが気になる! やっぱり、福島の食べ物ヤバいでしょ!」という人も両方います。

 特に、福島県内で有機農業や低農薬農法をして作物を全国の消費者に直販してきた農家は、やはり震災後、一時は客が離れたところが大部分でした。
 わざわざ直販の米・野菜を買うくらいのお客さんですから、その多くが「元から意識高い」系だったと言ってもいいでしょう。

 ただ、データを集めて、説明を尽くすことで、元のお客さんの中で納得して戻ってきてくれる人も出てきた。
 また、3・11前までは福島の農業に関心を持ったことなどなかったけど、3・11後に福島の農家を応援したくなったという新規顧客をうまく取り込んでいたりもします。

 二本松を中心に活動する「福島県有機農業ネットワーク」や、須賀川市の「ジェイラップ」など、全国的に有名な農業者グループもあります。
 福島第一原発から20キロほどのところにある広野町では、アヒルを使った珍しい米作りを行う「新妻有機農園」などがいちはやく農業を再開し、そこでできた米を中央省庁に送ったところ、宮内庁に届き天皇からお礼の一報があったりもしました。

 繰り返しになりますが、「福島の農業の問題」というと、「福島の農業の問題=放射線の問題」と等号で結ぶ傾向がありますが、それは極端な矮小化です。
 流通やブランド化、後継者や農薬、そして、そもそも食べ物ですから「おいしいかどうか」という話も忘れるわけにはいかないことです。そういう問題まで含めて目を配りながら状況を整理し、改善策を出していくべきでしょう。

厳格派も穏健派・容認派も、互いの価値観は守られるべき

 ここまで色々見てきましたが、改めて繰り返しておきたいのは、厳格派の方の価値観は守られるべきだということです。また、実際、そういう選択を支える仕組みもできてきています。
 同時に、穏健派や容認派の方の「なるほど、この程度ならばいいのではないか、許容できる」という価値観も同様に守られるべきでしょう。

 なぜ「守られるべきでしょう」などと改めて言うのかというと、厳格派の中には、穏健派・容認派を、相手の認知がどのような状態にあるのか配慮することなく、一方的に攻撃・誹謗中傷したり、「あいつらは無知だ」と、自らが知的に優位な立場に立ったかのように非難する「過激派」化する傾向があるからです。

「過激派」にも2種類あって、自分自身も完全に無知なのに「あいつは無知だ」と言う場合と、理論武装しまくっていて「あいつは無知だ」と言う場合とがあります。
 後者は議論のしようがありますが、前者は議論になりません。「相手が無知だと決めつけている自分自身」こそが無知であるという自覚がないからです。以前にも書いた「福島はどうなるかわからないからね」と知ったかぶりしてドヤ顔する人たちもそうですね。

「セシウムだけじゃなくてストロンチウムとかも出ているんだと聞いた」とか「検出限界値以下でもセシウムは入っているんだから危ないはずだよ」みたいな聞きかじり知識も、こういう人から出てくる話です。
 これを「すり抜けツッコミドヤ顔論法」と呼んでいます。

「こういう条件のもとで、こういう検査をして結果がこうです」とデータを示すと、「いや、きっとこういうこともすり抜けているはずだ」としたり顔・ドヤ顔をする。
「こういうデータにもとづけば、こういうことまでは言える」と科学的手順にもとづいた立証をすると、「でも、こういう話も聞いたことある。あなたの話からはこれがすり抜けてるだろう」としたり顔・ドヤ顔をする。
 そして、「だからこいつは間違っている、嘘を言っている」と最上級のしたり顔・ドヤ顔をする。

 全て、聞きかじった知識、そのレベルのことは科学的に既に疑問が投げかけられているのにもかかわらず、何度も同じような「すり抜け」を突っ込んで、悦に入る。
「すり抜けツッコミドヤ顔論法」を使った人が、虚ろな優越感と自己承認欲求の充足を得られるという以外には何も生産していない、極めて不毛な議論の構造です。

「科学では語れない」と開き直るのは、ただの知的怠慢

 よく「放射線の問題は、不確かな部分が多すぎて、科学では語れない」という言い方がされてきました。たしかに、初期においては私もそのような言い方をしてきました。
 しかし、それは初期の話です。4年経とうとする現在において、「科学では語れない」などと開き直っているのはただの知的怠慢です。

 初期において、科学的に不確かだったことの大方が科学で語れるようになり、その対応策・処方箋も用意されてきた。未だ「不確かな部分」もあるが、時間はかかるにせよ、可能な限り詳細にデータを蓄積し続けることで、遠くない未来に科学的に明確に説明できるようになってくることも多い。それが現在までに見えてきていることです。
 その現状を認識することなく、「福島を理解しているふり」「福島に寄り添っているふり」をするのは、ただの迷惑につながっていくことを理解すべきです。

 今後必要なことは、明確です。

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開沼博

311福島第一原発事故から3年以上経ちますが、今フクシマはどうなっているのでしょうか? いまだ具体的な数字や実態に基づかない情緒的な議論が溢れる中、この連載の目的は、フクシマの問題について「論理とデータを通した議論のベースの再設定」す...もっと読む

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kokikokiya 俗流フクシマ論批判 開沼博 https://t.co/7VEvjKB4NU 「 すり抜けツッコミドヤ顔論法」の不毛な議論はもうやめよう https://t.co/xHzLHPWtO7 あらためて読んで勉強になりました、ありがとうございます。こういう切欠でもないと 5年弱前 replyretweetfavorite

kokikokiya 4年経とうとする現在において、「科学では語れない」などと開き直っているのはただの知的怠慢です。 https://t.co/xHzLHPWtO7 5年弱前 replyretweetfavorite

kokikokiya 「科学では語れない」と開き直るのは、ただの知的怠慢 https://t.co/xHzLHPWtO7 よく「放射線の問題は、不確かな部分が多すぎて、科学では語れない」という言い方がされてきました。たしかに、初期においては私もそのような言い方をしてきました しかし、それは初期の話です 5年弱前 replyretweetfavorite

kokikokiya 「 すり抜けツッコミドヤ顔論法」の不毛な議論はもうやめよう https://t.co/xHzLHPWtO7 厳格派の中には、穏健派・容認派を、相手の認知がどのような状態にあるのか配慮することなく、一方的に攻撃・誹謗中傷したり、「あいつらは無知だ」と、自らが知的に優位な立場に立っ 5年弱前 replyretweetfavorite