服用前の注意「薬もいろいろ、土もいろいろ」
先日、大学で土を研究していた方から、土についての話を聞く機会がありました。
日本のように火山の多い地域の土地は養分が豊富であるとか、雨の多い地域では養分が雨で流されてしまい、痩せた土になるなど興味深い話をうかがい、土にもいろいろあるものだと感心しました。
漢方の古典『本草綱目』にも土だけを扱った「土部」というセクションがあります。漢方薬の本に土だけで独立のセクションがあるというのは意外かもしれませんが、土にも様々な個性があるとなると「なるほど」という感じです。
しかしこの連載をご覧の方にとっては、そもそも土が薬になるということ自体が「?」でしょう。
そこで今回は本草綱目の「土部」の中から「
広益本草大成 23巻(国立国会図書館デジタルコレクションより)
伏龍肝という名の土
伏龍肝は長いあいだカマドの火で焼き固められた土です。カマドの底から土の塊を掘り出して、黒く焼けた部分やゴミを取り除いたものが薬として使われます。
ですから伏龍肝には、
ではこの薬はどうして「伏龍肝」と呼ばれているのでしょうか?
伏龍は、カマドの神様なのです。そこから、伏龍はカマドを象徴する言葉になりました。カマドの下の土は、カマドの重要な部分、つまりキモなので、伏龍肝となるわけです。
中国人の感覚からすると、「竈」、「土」という字はダサい(中国語で「老土」といいます)感じがするらしいので、「伏龍肝」という名を使えば薬の正体が分からなくなるだけではなく、オシャレな響きになるという一石二鳥なのです。
中国では今でも漢方の処方箋には「伏龍肝」と書くのが普通です(竈心土と書く医師もいますが、その他の別名を書く医師は見たことがありません)。
伏龍肝の効果
北宋の第6代皇帝
皇太子が病気になり、宮廷の医師に治療させましたが、病状は悪化し、ついにはひきつけをおこしてしまいます。
そこで小児科の名医、
皇太子を診察した銭乙は「
土を処方したと知った神宗は激怒しますが、当時銭乙はすでに有名な小児科医でしたので、周囲の勧めもあって黄土湯が用意されました。
これを服用した皇太子はみごと回復したと伝えられています。
この話は銭乙の腕を称揚すると同時に、伏龍肝の優れた効果を示す話として、漢方の世界ではワリと有名な話です。
どこから持ってくるの?
銭乙の時代から効果に定評がある伏龍肝は、中国では今でもよく使われる漢方薬です。
しかしカマドが使われなくなった現在の中国で、どうやって伏龍肝を調達しているのでしょうか?
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