社会人1年目の教科書
—— 前回は、テーマの後にキャッチコピーをつける、というところまでお聞きしました。次は企画書の作り方を伺いたいのですが……これも読んでいてほんとうに驚きました。「子どもがレポート的な文章を書くために、テーマとキャッチコピーを決めて、次に企画書を作る? えー!?」と。
最相葉月(以下、最相) あはは(笑)。
—— 手順としては、そう言われると確かにと納得はするんですが、ここまで本格的に書いてあるとは思っていませんでした。
最相 この本を書くときに小学生や中学校の教科書をいくつか調べたんです。そうしたら今は「調べ学習」という授業があることを知りました。テーマをひとつ決めて、調べて、レポートにして発表するというものなんですけど、その過程で企画書を作っているんですよ。
—— え、そもそも、学校でも企画書を作ってるんですか。
最相 そうです。企画書の書き方を教えているんです。だから、そう難しいことではないのかなと思います。
—— 次の「調べる」、つまり取材についての記述も、さらに驚きました。企画書を作ったあとに、文献などを調べて、次に人や企業などに取材するために、取材先へのアプローチの仕方が細かく書いてあります。手紙の書き方も丁寧に説明してありますし、企業の広報部への問い合わせ方などもある。子どもたちがここまでできたらすごいですよね。
最相 広報部に問い合わせるのは私もまだむずかしいかなと思ったんですが、編集担当の小沢さんに聞いたら、実際に中学生が講談社の広報部を通してインタビューに来たりするらしいんですよ。
—— え、ほんとうに来るんですか。
最相 学校の先生が教えているんだと思うんですけどね。調べ学習をしていると、どうしても専門的な研究をしている機関とかに問い合わせないといけなくなりますから、広報部という言葉も普通に出てくるんでしょうね。
—— こういうノウハウは、普通、社会人になって一つひとつ苦労して覚えますよね。手紙の書き方、電話のかけ方、インタビューの仕方など、どれも編集者にとって重要なことばかりです。自分が編集者になった時に教えてもらいたかったなと読みながら思いました。
最相 先生みたいな人がいればいいですけど、そういう人が身近にいないんですよね。この本が先生代わりになってくれたらうれしいなと思います。
—— ぼく、うちの社員みんなに勧めています。
最相 ありがとうございます(笑)。人と人がどういうふうに出会うかということは、とても常識的なことですし、すごく基本的な部分ですよね。そこは年齢にかかわらず覚えておいたほうがいいと思います。
—— 中でも、取材後はお礼状を書きましょうという部分には目を見張りました。他の本だと、依頼までしか書いてなかったり、「お礼はしておきましょう」の1行くらいで済ませているものもあるんですけど、この本には具体的な文例まで載っているという。
最相 その後もずっと会い続ける人ならなおのこと、たとえ1回きりの取材でもいつまたご縁があるかわかりませんから、ちゃんとお礼の手紙を出しましょうというのが基本だと思います。
—— これは大人でも忘れがちですよ。この本を読んでいると、最相さんの丁寧な仕事ぶりが伝わってきます。
最相 わたしもいつも手探りでやってるんですけども。
肝心な話はレコーダーを止めたあと
—— この本、読み物としてもおもしろかったです。ところどころで最相さんの仕事に対する本音が漏れているところとか、すごくいいですよね。
最相 あははは。
—— この「人に会って話を聞いたあとは、これで原稿書かなくてすむならどれほどいいだろう」という部分なんて、実感があふれています(笑)。ぼくも本をつくるときによく思うことです。
最相 ありがとうございます、でいいのかな(笑)。
—— 取材が終わってレコーダーを切った後に……という話がありましたけど、
「時間が来たらノートを閉じ、録音していればレコーダーを止めます。ただし、まだここではほっとしないように。録音をやめた途端、相手が大事なことを話し始めることがあるのです」
『調べてみよう、書いてみよう』p.99より
—— これ、ほんとうによくありますよね。
最相 そうなんですよね。昔はカセットテープレコーダーだったので、録音を止めると「がちゃん」と音がして。その音を聞くとホッとする方もいましたね。そして、そのあとに「実はね」と思いがけない話が始まる……。
—— 慌ててメモをとったり。
最相 何度もありましたね。