ものを書くときにやるべきことは大人も子どもも一緒

テーマやキャッチコピーの決め方、調べ方や文章の書き方の極意を伝える、作家・最相葉月さんの新刊『調べてみよう、書いてみよう』『絶対音感』『星新一―一〇〇一話をつくった人』など、多くのベストセラーを生み出してきた最相さんが作品づくりに込める誠実さ、そして仕事との向き合い方をお聞きしました。
前編は、ノンフィクション作品が気づかせる日常のおもしろさや、企画の道標となるキャッチコピーの決め方についてです。

ノンフィクションは文化遺産を作れる

— 子ども向けにノンフィクションの書き方を記した『調べてみよう、書いてみよう』、たいへんおもしろく読ませていただきました。

調べてみよう、書いてみよう (世の中への扉)
調べてみよう、書いてみよう (世の中への扉)

最相葉月(以下、最相) ありがとうございます。

— 子ども向けということでしたが、僕のような編集者にとっても参考になる内容で、なんというか、すごい本だと思いました。編集者だけでなく、企画系の仕事、プロデューサー的な仕事の人とか、もっというと、ものづくりをする人みんなに役に立つ本ではないかと思います。

最相 うれしいです。とてもありがたいお言葉です。

— それにしても、これだけの内容なのに「子ども向け」というのがやっぱり驚きです。言葉はやさしいんですが、「なんのために書くのか」といった、骨太なところから、原稿用紙の使いかたのようなかなり細かいところまで丁寧に説明されています。「子ども向け」ということについては、書かれるにあたって特に意識したことはありますか?

最相 子ども向けというのは、ほんとうに難しかったです。でも特別なことはしていなくて、ノンフィクションの書き方を、一人できちんと理解できるように、テーマの選び方や資料の探し方、原稿の書き方など、ひとつひとつ具体的に書くことを心がけました。普通だったらここまで徹底した書き方はしませんね。でも、ものを調べて書くということの大枠を最初にしっかりと掴んでもらいたいと思って、いっぱい詰め込みました。

— どうして子ども向けに書こうと思ったんですか?

最相 「北九州市子どもノンフィクション文学賞」という小中学生を対象にした文学賞の審査委員を第1回から務めているんですが、応募作を読みながら、応募者一人ひとりが発掘してくる事実がとてもおもしろく、毎年どの作品にも少なくともひとつは自分が知らないことが書かれているんです。

— この本にも子どもたちの作品がいくつか載っていますが、どれもまっすぐに物事が描かれていて、ほんとうに感動しました。素直な視点がすてきなんですよね。

最相 入選する子の中には、そばに熱心な先生がいて書き方を教えてくれる場合もあります。でも、そういう先生がいない子どももたくさんいます。そういった子たちにもこの本でノンフィクションの書き方を知ってもらって、身近な事実のおもしろさにもっと気づいてほしいと思ったんです。

— 普段から体験している出来事でも、改めて書くとなれば、いろいろ発見がありますよね。

最相 例えば、今の10歳くらいの子だと、ひいおじいちゃんやひいおばあちゃんがいる子も多いんですね。その方々って、戦争を体験している。もし日本中の子どもたちがひいおじいちゃんやひいおばあちゃんの話を聞いてそれを書ければ、ものすごい文化遺産になると思うんです。

— たしかに! そういう話が残ること自体もすばらしいことですし。

最相 私たちのようなプロの人間が取材する戦争体験者というのはすごく限られていますし、特殊な経験をされた方が多い。そういった方ではなくて、もっと一般の方の、日々の暮らしの苦労話のようなストーリーを積み重ねれば、ものすごく大切なこの国の宝物になる。

— はい。子どもたちにとっても、いい経験になりそうですね。

最相 ええ。そういうものを作るきっかけになればと思ったのが、この本を書いた理由の一つでした。それと、先ほどもすこし言いましたが、子どもたちの作品を読んでいると、ハッとするような文章がとても多いんです。この本を読んで、そんな素敵な文章を書ける子が増えたらいいなと思いました。

— 実際、ノウハウを子ども向けに書くというのはどうでしたか?

最相 難しかったですね。分量として指定されたのは400字詰め原稿用紙200枚くらいだったので、すぐ書けるかなと思っていたんですが、いざ書き出すとたとえ話ひとつでも悩んでしまって。

— 大人の常識が通用しない読者ですよね。

最相 ええ。大人だったらすんなり分かるようなことでも、子どもだと分からないこともある。いつもよりもっと分かりやすく書き換える作業が必要で、それは大変でした。

— 自分の話で恐縮なんですが、僕は本の編集をする時、著者さんに「賢い中学生が分かるくらいの難易度で書いてください」というお願いの仕方をよくするんです。説明の多い本は、そのまま書いたら難しくなってしまう。でも、賢い中学生を読者に据えて書くとちょうどいい難易度の本になると思っていて。

最相 それはいいターゲット設定ですね。

— この本も子ども向けに書いたことによって、どんな人でもしっかり理解できる本になっている。大人向けの「仕事本」としても売れるんじゃないかなと思ったんです。

最相 ですって、小沢さん(笑)。
※同席していた講談社の担当編集者さん。

キャッチコピーは企画の道しるべ

— 基本的にこの本の構成に沿ってお話を聞いていきたいと思っていたのですが、具体的な書き方を教える2章の冒頭の「テーマを決めよう」は、かなり大きな話ですよね。

最相 はい。そして一番大切なところですね。

— この話はすごく重要なんですけど、いったんあとにまわして、その次の「キャッチコピーのつけ方」からお話を聞かせてください。

最相 はい。

— テーマの次はキャッチコピーをつけようとあります。

最相 はい。企画を一言で説明する言葉を考えてもらいます。

— キャッチコピーを考えるのって、大人でもなかなか難しいことだと思うんですが、最相さんはいつも企画段階からキャッチコピーをつけているんですか?

最相 はい。もう慣れているので書き出したりまでしないこともあるんですが、例えば『絶対音感』だったら、「絶対音感はイリュージョンである」というキャッチコピーを最初から考えていました。

絶対音感 (新潮文庫)
絶対音感 (新潮文庫)

— 子どもにもキャッチコピーをつけることを勧める理由はなんでしょう?

最相 企画の道しるべになるからです。自分が知りたいことをはっきりと掲げておかないと、どこに調べに行けばいいのか、誰に話を聞けばいいのか分からなくなってしまいます。

— なるほど。キャッチコピーというのは本来、宣伝とかで企画をひとことで説明をするための文章なわけですが、これをつくると企画を通してなにをやるのかが明確になるんですね。

最相 ええ。初めは一人で考えるのは難しいかもしれませんので、ご両親や先生に少し手伝ってもらってもいいかなと思います。
 例えば、ある昆虫の観察記を書きたいっていう子どもがいたら、どうしてその虫を調べたいのかを聞いてみる。そうしたら、甲羅がすごくかっこいいんだとか、ここの地方にしかいないんだとか、いろいろ出てくると思いますから、それがそのままキャッチコピーになりますよね。「なぜ◯◯虫は北海道にしかいないのか」とか。

— おお、「問い」を提示してあげるんですね。

最相 はい。最初の「問い」が分かれば、なにを調べればいいのか分かる。大人が少しお手伝いをしてスタートラインを切ることができれば、あとは子どもだけでも進めると思います。

— 大人が仕事で企画を作るときもそれは同じですよね。道しるべとなるキャッチコピーがあれば正しく前に進める。

最相 ええ。そのテーマに取り組もうとした理由が分かるキャッチコピーがついていれば、自分にとっての道しるべにもなるし、企画会議などでも説明しやすくなります。

— 子ども向けでこんなことまで書くんだ!と読みながらびっくりしたんですが、方法論として、すごく確かな方法だなと思いました。

最相 やるべきことは大人も子どもも一緒ですからね。


次回「作家になる前は文章を書くのが“だいっきらい”だった」、2/17(火)更新予定。

聞き手:加藤貞顕 構成・撮影:加藤浩


テーマの決め方、調べ方、文章の書き方の極意がわかる、大人も子どもも必読の一冊『調べてみよう、書いてみよう』、ぜひお手にとってご覧ください。

調べてみよう、書いてみよう (世の中への扉)
調べてみよう、書いてみよう (世の中への扉)

この連載について

“誠実さ”が紡ぐノンフィクションのお仕事—最相葉月インタビュー

最相葉月

テーマやキャッチコピーの決め方、調べ方や文章の書き方の極意を伝える、作家・最相葉月さんの新刊『調べてみよう、書いてみよう』。『絶対音感』、『星新一―一〇〇一話をつくった人』など、多くのベストセラーを生み出してきた最相さんが作品作りに込...もっと読む

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コメント

horimoto61 『企画を一言で説明できるキャッチコピーをつける』 キャッチコピーをつけることで"企画の 道しるべ"になり、自分がなにを調べていくべきなのかがはっきりする。 論文書いたりするときに使えるテクニック📝 https://t.co/p3InfuTp4L 2年弱前 replyretweetfavorite

kosequrage 企画にまずキャッチコピーを付けることの意味=“企画の道しるべになるからです。” 2年以上前 replyretweetfavorite

calvados2525 @XuanRuoxia 使えると思う、内容もしっかりしてるし。ただ大学生になると論文は書いても作文みたいなものはあまり書かない気もするからその辺はどうなんだろ…ちなみにこの記事読んでいいなと思って買ってみたよ https://t.co/yj81mfbKfC 4年弱前 replyretweetfavorite

hasmi_t あとでちゃんと読もう。https://t.co/nSMeLuBUtn 4年以上前 replyretweetfavorite