「得」をするから、知ったかぶりをする
知ったかぶりがこんなに悪影響をおよぼすなら、なぜみんなやめないんだろう? そんなのわかりきっている。少なくとも個人にとっては、「知りません」と白状したときのダメージのほうが、知ったかぶりをしてまちがいが判明したときのダメージより大きいからだ。
例の一世一代のPKを決めようとしているサッカー選手を思い出してほしい。真ん中を狙えば成功率が高いけれど、隅を狙ったほうが自分の評判が傷つくリスクが小さい。だから隅をめがけてシュートする。知ったかぶりするのも同じことだ。みんなのためになることをするより、自分の評判を守るほうが大事なのだ。答えを知らないと白状して、まぬけだとか負け犬だとか思われたくない。知ったかぶりをしたいというインセンティブは、とても強いのだ。
なぜこんなにも多くの人が将来の予測を立てたがるのかという謎も、インセンティブの面から考えると説明がつく。壮大で大胆な予測を立てて、それが的中すれば、莫大な見返りが得られる。たとえば今後12カ月以内に株価が3倍に上昇するぞと触れ回り、実際にそうなったら、この先何年も賞賛される(し、予測でたんまり儲けられる)だろう。
逆に相場が大暴落したらどうなる? 平気平気、あなたの予測なんかもう忘れ去られている。他人の予測の結果を逐一追跡しようという強いインセンティブをもつ人はいないから、将来起こることについて知ったかぶりをしても、ほとんど罰を受けずにすむのだ。
2011年に、キリスト教系のラジオ局を運営するハロルド・キャンピングという伝道師が、この年の5月21日土曜日が「世界の終末の日」になると予言して、世界を震撼させた。この日世界は滅亡し、敬虔な信者だけを残して70億の人類が全滅すると、彼は警告した。
ぼくたちの片方には幼い息子がいて、このニュースを見てすっかり怖がってしまった。キャンピングの予言には何の根拠もないんだよと、父親はなだめたけれど、息子は震え上がっていた。5月21日が近づくと、毎晩泣きながら眠りについた。家族全員がつらい思いをした。そして当の土曜日はとびきり晴れやかに明け渡り、世界はまだ無事だった。少年は10歳児らしい強がりで、全然怖くなんかなかったよと言い放った。
「そうだとしても」と父親はたずねた。「ハロルド・キャンピングはどうやって懲らしめたらいいと思う?」
「そんなの決まってる」と少年は言った。「外へ連れてってズドンだよ」
ちょっと過激だけれど、気持ちはわかる。予測を外しても罰されなかったら、外さずにいようとするインセンティブがなくなるじゃないか?
何年か前にルーマニアである対策が提案された。この国には運勢を占うことで生計を立てている「魔女」が大勢いる。ルーマニアの議会では、魔女を許可制にして税金を課し、そして何より重要なことに、予言が外れたら罰金を払わせる法案が検討された。当然魔女たちは憤慨した。ある魔女は得意ワザで反撃した。猫のフンと犬の死骸を使って政治家に呪いをかけると言って脅したのだ。
こうしてあなたは「知っている」と思い込む
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