専門家の予想の「的中率」はチンパンジー並み
最近ではいろいろな専門家の予測を体系的に追跡する研究者が現れ始めた。なかでもおもしろいのが、ペンシルベニア大学の心理学教授フィリップ・テトロックが行った研究だ。彼は政治に焦点を絞り、官僚や研究者、国家安全保障の専門家、エコノミストなどの300人近い専門家をリストアップして、彼らが立てた数千の予測を20年にわたって追跡した。
たとえば民主主義国X、仮にブラジルでは、いまの与党は次の選挙後に勢力を維持するのか、失うのか、それとも拡大するのか? 非民主主義国Y、たとえばシリアでは、これからの5年間で政治体制の基本的な性格は変わるのか? 10年間なら? 変わるとしたらどの方向に?
テトロックの研究結果は、なかなかに考えさせられるものだった。こういった選り抜きの専門家たちでさえ——96%が大学院で教育を受けていた——「自分たちが知っている以上のことを知っていると思い込んでいた」と彼は指摘している。予測の的中率はどうだったか。テトロックが茶化して言うように、「チンパンジーが投げるダーツ」の確率と大差なかったという。
「ああ、ダーツを投げるサルのたとえは、いまでも何かと話題にされるね」と彼は言う。「バークレー校の学部生に立てさせた予測なんかと比べると、専門家のほうが幾分ましだった。でも外挿アルゴリズムより成績がよかったかと言われれば、そんなことはない」
テトロックの「外挿アルゴリズム」っていうのは、要するに「現状に変化なし」と予測するようプログラミングされたコンピュータのことだ。そしてよく考えてみると、これはコンピュータなりの「アイ・ドント・ノー」の言い方なのだ。
CXOアドバイザリー・グループという企業が同様の研究で、株式投資の専門家が数年間に立てた6000を超える予測を調べてみた。結果、全体的な的中率は47・4%だった。やはりダーツを投げるチンパンジーでも、同じくらいの成績を出せただろう。しかもべらぼうな投資顧問料に比べたら、ほんのちょっとのコストで。
テトロックは、予測がとくに外れがちな人はどういう人かを聞かれると、ズバリひと言で答えた。「独断的」、つまり何かが本当かどうかを知らないのに、何が何でも本当だと思い込むような人だ。
名の知れた識者を追跡したテトロックなどの研究によれば、識者らは予測が大外れに終わったときでさえ、「圧倒的に自信過剰」(テトロックの言葉)なことが多かったという。 まちがったくせに高飛車とくれば、もう救いようがない。将来のことは意外にわからないものだとすなおに認めればいいのに。
ノーベル賞学者が出した「シンプルな答え」
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