坂口恭平のつくりかた

現実を脱出するために—「思考せよ」と恭平は言った【第1回】

建築家、作家、ミュージシャン、新政府総理大臣、さまざまなジャンルを横断し、数々の人たちを魅了してきた坂口恭平さん。その名を世にしらしめることになった『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』のころから、編集・構成で関わってきたライターの九龍ジョーさんが、坂口恭平さんの現在を伺いました。坂口さんの近著『現実脱出論』にあるように、我々は「現実さん」とどう向き合えばいいのか。その思考にどのような過程で至ったのか。今までそこにあった「現実」が、全て新しく見えてくる連続インタビューです。

路上生活者のブルーハウスの機能性に魅せられて撮影したバイリンガル仕様の写真集『0円ハウス』(リトルモア)を出版したのが2004年のこと。それ以来、建築、映画、音楽、アートなどさまざまなジャンルをまたぎながら活動し、作品を発表してきた坂口恭平。2011年には熊本に移住し、そこに「新政府内閣総理大臣」なる肩書きが加わったりもした。

筆者も編集者として2010年に『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(太田出版)、2014年に『幻年時代』(幻冬舎)と彼の本を担当してきたが、ここにきて坂口のモードが変わってきているのを感じている。端的に言えば、活動のウェイトが原稿執筆に置かれるようになったのだ。それは、『幻年時代』が熊日出版文化賞を受賞し、2014年7月に出版された『徘徊タクシー』(新潮社)が第27回三島賞の候補に挙がるなど目に見えるカタチでも現れている。

このたび『独立国家のつくりかた』(2012年)に続く講談社現代新書の第2弾、『現実脱出論』が上梓されたということで、改めて彼のいま考えていることを明らかにし、「坂口恭平とは何者なのか」に迫ってみたいと思う。

自分の声を「文体」として獲得できた

坂口恭平(以下、坂口) 最近は取材を受けるのがラクになってきたね。

— 相手が「坂口恭平」を研究してきてる?

坂口 というか、相手の聞いてきたことに対してただ素直に答えてる。

— 自分の考えを主張するんじゃなくて?

坂口 そう、対話に切り替えた。相手の感じていることに応じて、その場で考えを掘り下げるっていうか。自分でも新鮮だよ。『独立国家のつくりかた』の頃までは、とにかく喋りたおしてたからね(笑)。でも、新政府活動のあとに強烈な鬱になって。そこから『幻年時代』に向かったでしょ。自分の中に潜って執筆してたから、書くこと以外で人に何を伝えたらいいんだろう、っていうのがわからなってしまって。それでまず人の話を聞くようになった。

— 「執筆」という軸ができたからこその変化だね。

坂口 いま思えば「建てない建築家」*1って、つまりは「文の人」っていうことだもんね。以前にやっていた「立体読書」*2という試みも、ようは近代文学の江戸川乱歩や佐藤春夫や宇野浩二なんかを勝手に空間家として捉えていたわけで。たとえば萩原朔太郎の『猫町』だって、ぜんぜん違う街にやってきたと思ったら、そこは実は近所で、普段歩かない方向に歩いていただけだったっていうことでしょ? ……でも、こんなこと言ってるけど、いわゆる「読書」ができるようになったのって、去年からだからね(笑)。
*1 坂口さんは早稲田大学理工学部建築学科・石山修武研究室出身。
*2 小説のストーリーを一つの絵にドローイングしながら読む試み。

— 読書どころか、自分の書いた原稿ですら、一度も読み返したことがなかったでしょ。

坂口 「推敲」って作業を知らなかったから(笑)。読み返さないし、当然、語順を直すこともなかった。

— なにが変わったんだろう?

坂口 『幻年時代』を書いたことで、自分の声を「文体」として獲得できたんたんだと思う。それまでは、ただの「声」だったから。とにかく声を伝えなきゃって。推敲なんて考えもしなかった。全部、ライブ盤みたいな感じ。だから、対象もどちらかというと「読者」というよりは、「オーディエンス」だったよね。まあ、その場その場の振る舞いとして間違ってはいなかったと思う。たしかに伝えたいことはあったわけだし。ただ、ライブも「ライブ盤」になると、そこにあったはずの空間が消えてしまう。気になる女の子と行ったとか、聴きながらビール飲んだとか。

— その場に行かないと味わえないノイズは消えてしまうよね。

本気で考えていた会社の立ち上げ

— 一方で、それが「坂口恭平とは何者か」っていうことを分かりづらくしていた部分でもあったような気がする。

坂口 だってね、ホントに考えを伝えたい人が目の前にいたら、そこに向けて真剣に伝えるよね。ただ本をちゃんと書けば、より多く、遠くまで、それこそ未来にまで届くということが分かってきた。それも録りっぱなしのライブ盤みたいなものじゃなくて、ライブはライブなんだけど、ミキシング一発で完璧なサウンドプロダクションにする術も手にしたっていうか。いまこの瞬間の一番ギンギンな感覚を、縦糸、横糸、上糸、下糸を編むことでテキストに置き換えることができるんじゃないかと。

— 『徘徊タクシー』がまさにそうだね。実際に会社を立ち上げようとしていたのを、テキストに落とし込んだわけでしょ?

坂口 ホント起業寸前だったからね(笑)。企画書まで用意したけど、ヨメに止められて。しかも2つも会社をつくろうとしてたんだよ。まず一社目が「パブリック・ピロー」。

— 「パブリック・ピロー」の“ピロー”は、ピロートークの“ピロー”ね(笑)。

坂口 けっこう本気だった(笑)。だってオレのリサーチでは女性って、あまり”舐められて”ない人が多いんだよ。冷え性の人も多い。そうした女性たちに温もりを提供するっていう。1時間1万円で、女性を腕マクラしながら、いろんな話を聞くわけ。それでオレは「わかるよ」としか言わない。ピロートークのパブリック化。

— 下心まる出しで(笑)。

坂口 いや、だから悪さはできないように、ヨメに「お前が受付しろ」って言ったわけ(笑)。そしたら「バカじゃないの!?」みたいな反応で。

— あたりまえだよ!(笑)。

坂口 それでもう一社が「徘徊タクシー」だった。オレのひい婆ちゃんが、ある日、「山口に行かなきゃいけない」って財布をまさぐってて、「あの人、ちょっと違う世界が見えてるんじゃないの?」って母ちゃんたちに言ったら、「な~に言ってるの」みたいな反応で、でも何か引っ掛かったんだよね。それに徘徊してクルマに轢かれてもまずいから、山口に行きたいならオレがクルマに乗っけてあげようと思って。それで思いついた会社が「徘徊タクシー」。ユマニチュード*3みたいなケアも念頭にあったし、このアイデアは行けると思って、けっこう本気だったんだけど、やっぱりヨメに止められて。
*3 フランスで考案された認知症患者のケア方法。

— まあ、そうだろうね。

坂口 そしたら九龍が、「それ、小説に書けばいいよ」って教えてくれたわけじゃん。

— やっぱりポイントは、その会社を本気でつくりかねなかったっていうところだと思う。

坂口 「新政府」までつくっちゃった実績があるから(笑)。熊本県庁に「『新政府』に入るにはどうしたらいいですか?」って手紙を書いてきた80歳のおじいちゃんとかいるからね。

「思考実験」から「物語」へ

— それぐらいリアルに捉えていた人も少なくないと思うよ。

坂口 それこそ、世の中的にも「現実脱出」の雰囲気が漂ってはいるよね。だけどさ、「新政府」も、オレの中ではいちおう『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』から始まった思考実験の一つなわけで。でも、「思考実験」って言ってしまうからダメなんだなってことが最近わかってきたの。そうじゃなくて、「物語」って言えばいいんだと。「思考実験」だとユートピアみたいなもので、実現しないものなんだよね。でも、「物語」っていうのは1000年以上前の「アラビアンナイト」だって残っちゃうわけ。だから、オレのやってることも、つくってるものも、「物語」っていうことにすればしっくりくる。

— もともと国家や宗教も、ある種の「物語」だとも言えるからね。

坂口 つまり独立国家って、“自分の物語”っていうことなんだよ。ただ『独立国家のつくりかた』の反省点としては、あの中ではオレの物語を読ませればいいものを、何ヵ所か、人に向かって「こうしなさい」と指示をしてしまったこと。考えを押しつけてしまったというか。

— そういうのに感化されやすい人はいるからね。感化自体はいいんだけど、そのことで思考をストップさせてしまうのがまずい。

坂口 そうなの。だから、カギ括弧をつければよかったと思って。

— カギ括弧?

坂口 「思考せよ」と恭平は言った、みたいな。

— 登場人物の台詞にすればよかったんだ(笑)。

坂口 そうやって一枚かませばいい。たしかに現代社会ではみんな、いちおうパンツを履いてるじゃん。亀頭同士をコチコチぶつけあってない。なるほどなって。だから「物語」。小説を書いたからと言って、べつに小説家になりたいわけじゃないし、基本的にいままでやってきたことの延長なんだよなっていうのは、そういうこと。

この連載について

坂口恭平のつくりかた

九龍ジョー /坂口恭平

建築家、作家、ミュージシャン、新政府総理大臣、さまざまなジャンルを横断し、数々の人たちを魅了してきた坂口恭平さん。その名を世にしらしめることになった『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』のころから、編集・構成で関わってきたライターの九龍...もっと読む

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コメント

makimuuuuuu cakesで何冊も本を書いていながら「推敲って作業を知らなかった」「全部、ライブ盤みたいな感じ」みたいなノリ、このしれっとド天才な感じがわたしはすごく好きなの 4年以上前 replyretweetfavorite

manaview 第二回も楽しみなお二人の話。 4年以上前 replyretweetfavorite

asabueno 雨音のする夜。坂口恭平さんの「雨の椅子」を聞きながら坂口恭平さんの記事を読んで脱現実。 4年以上前 replyretweetfavorite

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