0ベース思考—どんな難問もシンプルに解決できる

誰でも「一番いい答え」が出せるようになる0ベース思考法

「彼女とは別れた方がいい?」、「公共政策は何をすべき?」。日常のお悩みも、世界を変えるかもしれない大問題も、合理的に考えれば「こっちが正解」なのに、なぜわたしたちは「正解じゃない方」を選んでしまうのでしょうか?
『ヤバい経済学』で世間をあっといわせたシカゴ大の鬼才教授の「どんな問題にも一発で本質に切り込める」思考法を紹介した一冊、『0ベース思考』(ダイヤモンド社)よりお届けします。

第1章 何でもゼロベースで考える
—バイアスをゼロにしてアプローチする思考法

『ヤバい経済学』『超ヤバい経済学』(ともに東洋経済新報社)を出してから、ありとあらゆる質問がぼくたちのところに舞い込むようになった。

「大学の学位には〝それだけの〞価値があるのか?」(簡単な答え:イエス。くわしい答え:やっぱりイエス)。

「家業を子どもに継がせるべきか?」(もちろん、家業をつぶしたいのならね。データを見るかぎり、外から経営者を引っ張ってきたほうがよさそうだ)。

 もっと本質的な質問もあった。

「何があれば本当に幸せになれる?」「所得格差ってそんなに深刻な問題?」「オメガ3脂肪酸の多い食事は世界を平和にする?」

 いろんなものごとの、よい点、悪い点を知りたいという人もいた。

 自動走行車に母乳育児、化学療法に相続税、水圧破砕法フラッキング、宝くじ、祈り療法、オンラインデート、特許法の改正、サイの密猟、アイアンでのティーショット、仮想通貨などなど。あるとき「肥満の蔓延を解決する」方法を教えてほしいというメールを受けとったかと思えば、5分後には「世界の飢餓をなくして、いますぐ!」なんてメールを受けとる始末だった。

 ややこしすぎて解決できない謎や、難しすぎて解決できない問題なんかあるはずがないと、読者ははなから思い込んでいるようだった。ぼくたちが特別なツールを、何か特製の鉗子みたいなものをもっていて、それを体に差し込めば、埋もれている知恵を引っ張り出せるとでもいうように。

 それが本当ならいいのに!

 現実には、問題を解決するのは難しい。何かの問題がいまもあるってことは、いままでも大勢の人が解決できなかったってことだろう。簡単な問題は消えてなくなる。いつまでも残っているのは、難しい問題なのだ。それに、小さな問題一つとっても、きちんと答えを出すには、適切なデータをつきとめ、整理して分析するのにかなりの時間がかかるものだ。

 だから個別の質問に答える本を書いて、むざむざ失敗するくらいなら、前の2作で示したようなちょっと変わった、そう「フリーク」〔常識の枠に収まらない人、既存の慣習にとらわれない人〕みたいな考え方が誰でもできるようになる、って本を書いたほうがいいんじゃないかとぼくたちは考えた。

 それはどんな本になるだろう?

「PKを蹴る方向」も合理的に決められる

 ちょっと想像してほしい。

 あなたはサッカー選手、それも超一流の選手で、チームをワールドカップの決勝まで導いてきた。

 あとはペナルティキック(PK)を決めさえすれば優勝だ。確率的には勝算は高い。このレベルの選手になると、PKの成功率は75%ほどだ。石灰で引いたペナルティマークにボールを置くと、スタンドからうなり声が上がる。ゴールまで10メートルちょっと。ゴールポストは幅7メートル32センチ、高さ2メートル44センチだ。

 敵のキーパーがにらみつけてくる。足を離れたボールは、時速130キロくらいで飛んでいくだろう。この速さだと、ボールを蹴る方向を見届ける余裕は、キーパーにはない。

 こう蹴ってくるだろうと予測して、一か八かで飛ぶしかない。キーパーが読みを外せば、PKの成功率は90%くらいに上がる。

 理想を言えば、サイドぎりぎりを狙って、キーパーが読みを当てても止められないほどの速いシュートを放ちたい。でもその場合、少しのミスも許されない。わずかでも狙いが狂ったら、ゴールポストを完全に外してしまう。だからやや余裕をもって、ちょっと内側を狙いたい。でもそうすると、キーパーが読みを当てたらゴールを守りやすくなってしまう。

 右サイドと左サイドのどっちを狙うかも決める必要がある。

 あなたがたいていの選手と同じで利き足が右なら、得意な側は左だ。左サイドを狙ったほうが、強くて正確なシュートを撃てる。でも当然、キーパーはそれも知っている。だからキーパーが左に飛ぶ確率は57%で、右に飛ぶ確率はたった41%なのだ。

 そんなわけであなたは一世一代のシュートを決めようと、ピッチに立っている。声をかぎりの声援を受け、心臓は早鐘を打っている。世界中の目が、国中の祈りが、あなたに注がれている。シュートが成功したら、あなたの名は永遠に語りつがれるだろう。失敗したら—いや、それを考えるのはよしておこう。


 どうすべきか、あなたはめまぐるしく考える。得意な側と不得意な側のどっちを狙う? サイドぎりぎり? それとも安全策でちょっと内側? このキーパーとPK対決したことはあったっけ? あったなら、そのときどこを狙って、キーパーはどこへ飛んだ?

 こういうことを考えつつ、キーパーが何を考えているのか、それにあなたが何を考えているとキーパー・ ・ ・ ・が考えているかまで深読みしようとする。

 ヒーローになれる確率は75%くらい、それはそれで悪くない。でも確率は高けりゃ高いほうがいい。もう少しうまい考え方はないだろうか? 常識の壁を超えて、敵を出し抜く方法が? もし、もしもだが……右でも左でもないところに蹴ったらどうなる? ゴールのど真ん中を狙うという、とんでもなくバカげたやり方はどうだろう?

 そう、キーパーがいま立っている場所に蹴り込むのだ。あなたがシュートを放ったら、キーパーはそこから動くに決まっている。さっきのデータでは、キーパーが左に飛ぶ確率は57%、右に飛ぶ確率は41%だった。……ってことは、真ん中から動かない確率は、100本中たったの2本だ。もちろん、キーパーはどっちに飛んでも真ん中に来たボールを止められるかもしれないが、その確率はどれくらい? ど真ん中PKの全データさえあればなあ!

 ああ、たまたま手元にあった。真ん中狙いのキックはリスクが高そうだが、じつはサイドを狙うより7%も成功率が高いのだ。

 このチャンスに賭けてみる?

 この際、賭けてみよう。あなたはボールに向かって助走し、左足を軸に右足を振り上げ、シュートを放つ。その瞬間、大地をゆるがすような歓声がとどろいた。ゴォ—ル! あなたがチームメイトにもみくちゃにされるあいだ、スタンドは歓喜にわきかえる。この瞬間は永遠だ。この先幸せな日々が続き、子どもたちは強くて心優しくて裕福な大人に育つだろう。めでたしめでたし!

キッカーはゴールを決めたい「だけ」なのか?

 ゴールの真ん中を狙えば成功率がグッと上がるのに、実際にそこを狙うシュートは17%でしかない。なぜそんなに少ないんだろう?

 1つには、真ん中を狙うなんて、一見とんでもない考えに思えるからだ。ゴールキーパ ーめがけてボールを蹴るだって? そんなの普通じゃないし、まさかの常識破りだ—でもそれを言うなら、病原菌を注射して伝染病を予防するなんて考えも、最初はそう思われていた。

 また、PKでキッカーが有利な理由の1つは、ボールの軌道が予測不能だからだ。キーパーには、ボールがどこに飛んで来るかはわからない。もしキッカーが毎回同じ場所を狙えば、成功率はガタ落ちする—真ん中狙いが増えれば、キーパーも戦略を変えてくるだろう。

 とくにワールドカップみたいな大一番で、キッカーが真ん中を狙わない、3つめの大事な理由、だがまともなサッカー選手なら絶対に認めようとしない理由がある。それは、恥をかきたくないという気持ちだ。

 もう一度、PKを蹴ろうとしている選手になったつもりで考えてみよう。この大事な瞬間、あなたの本当のインセンティブ〔人を行動に駆り立てる動機や要因〕は何だろう? そんなの聞くまでもない。シュートを決めてチームを勝たせることだ。それならど真ん中を狙えと、データは教えている。でも、試合に勝つことがいちばんの願いなんだろうか?


 あなたはボールを前に立っている。真ん中を狙うぞと、決めたところだ。でもちょっと待った—もしキーパーがダイブしなかったらどうなる? どういうわけかキーパーが仁王立ちのまま、真正面に蹴り込まれたシュートを腹で受けとめて、一歩も動かずに彼の国を救ったら? みじめにもほどがある。いまやヒーローはキーパーのほうで、あなたは闇討ちに遭う前に家族を国外に逃がさなきゃならない。

 ふうむ、とあなたは考え直す。

 なら普通にサイドに蹴り込んだらどうだろう。キーパーが読みを当ててボールを止めるかもしれない? いや、果敢なトライに阻まれたって、雄々しく攻めたことに変わりはない。残念、ヒーローにはなれなかったけれど、国外逃亡の必要もなくなるってわけだ。

 この「下手すると恥をかくようなことは避けて、自分の体面を守る」っていう、利己的なインセンティブに従うなら、あなたはきっとサイドに蹴り込むだろう。

 逆に、利他的なインセンティブに従って、恥をかく危険を冒してでも国のために勝ちに行くなら、真ん中にシュートするだろう。

 ときとして人生には、ど真ん中を狙うのがいちばん果敢、ってこともあるのだ。

次回「人は「みんなの利益」より『自分の利益』を優先する」、2/12(木)更新予定です。


シリーズ750万部突破! 誰でも「一番いい答え」が出せる思考法を紹介した『0ベース思考—どんな難問もシンプルに解決できる』、2/13(金)発売予定です。

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この連載について

0ベース思考—どんな難問もシンプルに解決できる

スティーヴン・レヴィット /スティーヴン・ダブナー /櫻井祐子

「ワールドカップのPKはどの方向に蹴ると入りやすい?」、「彼女とは別れた方がいい?」、「公共政策は何をすべき?」日常のお悩みも、世界を変えるかもしれない大問題も、合理的に考えれば「こっちが正解」なのに、なぜわたしたちは「正解じゃない方...もっと読む

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コメント

consaba #ヤバい経済学 5年以上前 replyretweetfavorite

kobayashitaxi 風琴工房のペナルティー・キリング略してPK、素晴らしかった。鳴り止まぬオベーション。何の因果か今朝PKにまつわるコラムを読んだのだけど、なりふりかまわない強烈など真ん中に叩き込まれた気分。 https://t.co/7UeYjfcoct 5年以上前 replyretweetfavorite

kobayashitaxi PKを蹴る方向も統計的に決められる。けれどそれをしないのは「恥をかきたくないという気持ち」があるから。―― 5年以上前 replyretweetfavorite

yoshitake_f 本田選手がPKを真ん中に蹴る理由もこう考えると面白い。 5年以上前 replyretweetfavorite