文章力は、伝達力の基本」 【第16回】相手の立場に移動して「反省」してみる

「日本人が日本語の文章を書くための文章力は、わざわざ身につけなくてもよい」は誤解です。子どものころに「文章を書く」という指導をきちんと受けてこなかった私たちに、入門書を得意とする作家・木暮太一さんが、文章力を身に付けるためにはどうすればよいかをお伝えします!


〔PHOTO〕Thinkstock

「読み手」が誰なのかを知る

文章は口頭の説明と違って、その場で補足することができません。読み手にうまく伝わっていなくても、修正することができません。「一発勝負」です。

顧客にメールで案内を送るとしましょう。みなさんは、「これで伝わるだろう」と思ってその文章を書きます。でも、伝わらなかったら? それで終わりですね。

メールの文中に「何かご質問があったらご遠慮なくお問い合わせください」と書いても無駄です。よほど興味がない限り、質問なんてしてくれません。文章はいつも「一発勝負」なんです。

そのため、事前の準備と下調べが重要になります。口頭で伝える時よりも丁寧に慎重に「相手に分かりやすい言葉」を探る必要があるのです。

そして、読み手が誰かによって、分かりやすい表現は変わります。誰が読むかによって、適宜表現を変えなければいけません。要は「相手に合わせてベストな表現を選ぶべき」ということですが、では、どうすれば「相手にベストな表現」を選ぶことができるのでしょうか?

相手にベストな表現をするためには、まず「相手を知ること」が不可欠です。自分の文章を読む相手が、どんな前提知識を持ち、どんな語彙を使い、普段どのような表現でコミュニケーションを取っているのかを知らなければ、その人に合う表現を選ぶことはできません。

みなさんの文章を読むのは、みなさんの仕事をほぼ把握している上司・同僚なのか、同業のクライアントなのか、それとも全く知識がない小学生なのか・・・。相手によって、書き方を全く変えなければいけないのは、想像していただけるかと思います。

ただし、読み手のプロフィールを知って満足してはいけません。というのは、プロフィールがわかっても、それだけでは相手がどんな言葉を「分かりやすい」と感じるかは分からないからです。

ほとんどの場合、書き手は、その文章が「誰向け」であるかは分かっています。ところが、実際にはその「○○な人向け」にはなっていません。なぜかというと、プロフィールを言葉だけで考えて、実際にその人たちがどんな言葉を使い、どんな知識を持っていて、どんなことに興味を持っているかまで考えないからです。

読み手が分かりやすい言葉を書くためには、相手の「プロフィール」や「肩書」だけでなく、普段どんなことに興味を持って、どんなボキャブラリーで話しているか、どういうことについては熟知していて、どんなことは全く知らないか、を理解しなければいけないのです。

「読み手を推測する」だけでは不十分

このように説明すると、

「そんなことは分かってる。『読み手がどんな内容、どんな言葉だったら理解できるか』を推測すればいいんでしょ?」

と考えがちです。でもそれは違います。

なぜか? それは、"自分で推測しただけ"では、間違う可能性が高いからです。書き手が自分の頭の中で考える「読み手」は、所詮、書き手が勝手に作り上げたイメージにすぎません。ですから、そもそもそのイメージしている人物像が実物と違っていたとしたら、いくら詳細にイメージしたところで意味がありません。

政治家から「国民の立場に立った政治を行います」と言われても、なんとなく腑に落ちません。「政治家がイメージしている『国民』」が間違っているような気がするからです。資産が数億円、数十億円の政治家が「想像」するだけで、わたしたち庶民の生活を理解できるとは思えません。

ここでまた大きなポイントがあります。読み手がどんな言葉と論理を「分かりやすい」と感じるかを知るためには、自分がいるところから読み手のことを推測するのではなく、相手になりきって感じてみることが必要なのです。相手の場所に自分が移動して、「相手の世界観」を共有してみることが必要なのです。そうしなければ、適切な言葉や表現は見えてきません。

それはちょうど「大人と子供で、見えている世界が違う」のと一緒です。大人と子供では目線の高さが違うので、当然ながら「見えている世界」が違います。大人にははっきりと見えているからといって、子供にも同じものが見えているとは限りません。

そして、子供には何が見えているかを知るためには、大人の目線から見るのではなく、子供の目線に移動しなければいけません。子供と同じ目線から見て初めて「子供の目から見た世界」が分かるのです。

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木暮太一

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