第82回】ドイツの冷徹な"統治"に反旗を翻すギリシャ新政権にEUは大揉めの予感

ドイツのシュトゥットガルトに在中の川口マーン惠美さんが、EUから見た日本や世界をテーマにお届けするコラムです。


ギリシャ新首相となったアレクシス・ツィプラス氏 〔PHOTO〕gettyimages

ドイツにとって最悪のシナリオで動き始めたEU

1月25日、運命のギリシャ総選挙が終わり、EUはますます混乱してきた。

ギリシャ国民は、「屈辱は終わった」「我々は歴史を書き換えた」と狂喜している。選挙前の報道では、Syrizaが勝っても連立相手が決まらず、再選挙になるかもしれないなどといっていたが、なんの、なんの! アレクシス・ツィプラス党首はすぐさま連立のパートナーを見つけ、選挙の翌日には首相に任命され、その翌日には超特急で組閣まで終えた。

Syrizaは急進左派なのに、連立相手のANELは右派だ。党首はパノス・カンメノス。傍から見れば、右派と左派だが、言っていることは似ている。ANELもSyrizaと同じく、EUから押し付けられた緊縮財政に大反対し、外国の金融機関がギリシャの財政を管理している状態を指して、"占領下"と称していた。つまり、これからギリシャの勇ましい連立与党は、自国を占領軍から解放するつもりなのだ。

そしてEUは、これら一連の動きを、「まさか・・・」という思いで、呆然として見つめている。EUは、少なくともドイツにとって、最悪のシナリオで動き始めた。

IMFとEUが、ギリシャに最初の援助730億ユーロを与えたのは2010年春だった。このうちドイツの負担分が152億ユーロ。そのうえ2012年には、ギリシャが外国の銀行などから受けていた融資の半分以上が返済免除となった。これが総額1,000億ユーロだ。この措置で、ギリシャの国債を持ちすぎていたドイツの銀行が倒産し、その救済にドイツ国民の税金が使われた。

その後、2012年から現在にかけて、ギリシャへの2度目の援助として、再び1,530億ユーロという膨大な額が注ぎ込まれている。EUの大国ドイツの負担分は常にいちばん多く、3割近くを占める。

その代わり、出資者であるEUとIMFと欧州中央銀行は、ギリシャの財政再建のため、与えたお金の使い道を厳しく監視してきた。ドイツにしてみても、貸したお金が戻って来ないとなると、再び国民の税金が失われることになるから当然の措置だ。

ギリシャのユーロ離脱に言及することはタブー

しかし、厳しい節税と緊縮政策は、ギリシャを甚だしく疲弊させてしまった。お金が回らなくなったために倒産が相次ぎ、人々は職を失い、消費は行き詰まり、挙句の果てに年金は下がり、医療保険も社会福祉も壊れた。それでもEUは、節税、緊縮を緩めることを許さなかった。ギリシャの人々は絶望し、不満がこれ以上にないほど高まった。

そのギリシャ国民に、Syriza党のツィプラス党首は、自分が政権を取ったら、国の再建は貧乏人のお金ではなく、金持ちのお金でおこなうと言った。それに、EUからの援助として受け取った多額の債務も、返済については仕切り直すつもりだ。民営化はまた国営に戻し、リストラした公務員を再雇用する。とにかく、お金が回るようにする。屈辱の緊縮財政には終止符を打つ!

ギリシャ国民は、国が借金まみれになっていたことに、どのみち責任を感じていない。この国は、少数の金持ちが国の資産のほとんどを持っている国だ。そのうえ、賄賂が異常なほどに横行している。だから、国が傾くのは、それは政治家と金持ちが悪いからだと思っている。

それなのに、不健全な国家財政が明るみに出て以来、自分たちは怠惰な国民の烙印を押され、EUの独裁下に置かれ、虐げられている。特に、一番強硬にこの冷徹な緊縮政策を推し進めたのがドイツだということで、メルケル首相がギリシャ人の憎しみの最大の標的となった。

だから、貧しいギリシャ国民は、メルケル首相への恨みを晴らすために、40歳の若手、ツィプラス氏に投票した。EUを敵に回すべきではないという冷静な声もあったが、そんなこと、どうだっていい。どっちに転んでも、これ以上悪くはならないだろう、と皆が思っていた。ギリシャ人は、今、とても強い。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

現代ビジネス

この連載について

初回を読む
シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

takahiro_tskhr http://t.co/faEmLRCj5L 5年弱前 replyretweetfavorite