本作『vN』は、未来において人と変わらない振る舞いをすることができるロボットが一般的に存在している社会を描いた、ロボットSF小説である。著者のマデリン・アシュビーはカナダ在住で未来予測関連の仕事をしながらSFを執筆している根っからのSFファンだ。vNっていったいなんなんだと思うだろうが、フォン・ノイマン(von Neumann)式自己複製ヒューマノイドの略称なのでvNとなっている。
ロボットが人間と変わらぬ容姿・立ち居振る舞いをして、時には人間と恋愛もする社会に起こるさまざまな問題と、「その先には何が起こるのか」までを射程に入れて描いてみせる革新性。ロボット物だからこそできる嵐のようなアクションシーンの連続。そして「人間とvNの複合家族」というまったく新しい関係性を現代の我々にも納得できるように書く難しさに挑戦し、同時にめまぐるしく状況が移り変わっていく痛快娯楽活劇でもあるという読みやすさも伴って、いろいろとてんこもりな一冊だ。
この世界ではvNたちはもはや社会に一般的に浸透しており、自律的な知性を持つがゆえに人間と恋愛をすることもできる。ただ人間とvNの恋愛関係は、社会的にもいまだに偏見が残っているし、法的に結婚などが認められているわけではない。かといって差別的に排除されるわけではないぐらいには認められているようだ。つまるところ、この社会において人間はヒューマノイドとある程度は共存し、繁栄している。そんな社会を描いている本作だが、現代においてロボットと恋愛し、暮らす可能性をリアルに想像したことがある人はあまりいないだろう。それは具体的にはどのような問題と未来を抱えた社会なのだろうか?
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