こんにちは。外科医をやっています、雨月メッツェンバウム次郎です。
前回は聴診器でお医者さんがなにを聞いているか、というお話を致しました。
医者は「診察」の名の下に、さまざまな道具を使って患者さんにアプローチします。聴診器もそうですし、超音波やCT、内視鏡などさまざまな精密機器を使います。ですが、「診察」という行為における一番重要なスキルは、検査やデータよりも「人と人とのコミュニケーション能力」だと私は思っています。
そこで今回は、「ナースに学ぶ、心に傷を負った人への接し方」と題してコミュニケーションについてお話してみたいと思います。
私は医者になって多くのナースと出会う中で、ナースのびっくりするところをたくさん見てきました。そして、同僚である彼女たちからとても多くのことを学んだのです。
彼女たちは、看護師という専門職であるだけでなく、実は「コミュニケーションのプロ」でもあるんです。あまり知られていませんが、日々の仕事の中でかなり難しい対人関係をうまくやっているのが、彼女たちなのです。
何といっても、ナースの相手は「病人」です。病院で働いているので当たり前なのですが、「病人」って、コミュニケーションをとるのがとっても難しい人々なんですね。
でも、彼ら「病人」にナース側の要求をなんとか通さねばならないことは多々あります。足がめちゃくちゃ痛いのに無理してでも動いてリハビリしてもらったり、高熱でがたがた震えているのに検査室まで行ってもらったり、なんてことはしょっちゅう。それどころか、治らないような病気を受け入れてもらったり、難しい病気について勉強してもらったり、治療に参加してもらったり、時には生活を変えてもらったり、生き方さえ変えてもらう必要があることだってあるんです。患者さんというひとりの人間に、「変わってもらう」のです。
ただでさえ病気で入院した精神的ショックがあって、その上痛かったりしんどかったりする中で、こんなハードルの高いお願いをする。もちろん、すんなり受け入れて行動を変えられる患者さんばかりではありません。
では、いったいどうやってお願いし、患者さんに「変わってもらう」のでしょうか?
実は私、患者さんとの関係がなかなかうまくいかず悩んでいたことがあったのです。それで、ある時同僚ナースに相談したら、そんな難しいミッションを成功させる必殺技を教えてくれました。教えてくれたのは、私が信頼する若いバツイチの、スーパーナースです。
なんでも彼女が言うには、患者さんと良い関係を作るには、「不幸勝ち」すれば良いんだそうです。
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